さて、それから何年か経ちまして。
■ ■ ■
「や、ファイ」
ぎい、と教会の扉を開けて、当然のように挨拶をする青年に、対する神父は「ん?」と首をかたむけた。
「え……どちらさま、でしょう?」
「は?……いやいや、俺だって、俺。ファイ!」
1秒固まり、それから慌てた様子でまくしたて始める相手。
その金髪を見、ファイはああ、と口を開いた。
「もしかして、黒っちの変装ー?」
「なぜ?!なんでそうなった?!」
青年は、がっくりその場に崩れ落ちる。その後ろから、ふいに2つの影が現れた。
「からかっているだけに決まっているだろう。ノザ、早く行くぞ」
「ほらほら、ね。時間の無駄だし、行こう?」
「あはは、やっぱり神威君と昴流君は騙せないなあ。ていうか躊躇ないよねぇ。……久しぶり、3人とも」
「なっ……!」
呆れた顔で、神威がノザの手を引っ張り上げる。
一方、今更はめられたと気が付いたノザは、みるみる顔を真っ赤にした。
「な、ファイっ!!ゆるさね、」
「何の騒ぎだ」
そこへ、奥からひょっこり現れる黒い男。
「黒りんぽん!!」
「なんだその摩訶不思議な名称は!!……って、てめぇか」
でっかくなりやがって、とどこか不満そうに黒鋼がうなる。
ずんずん大股でやってくると、黒鋼はそのままノザの頭をわしゃっと撫でた。
「まあ、あれから時は経ってるからな。……何年ぶりだ?」
「3年」
「3年、か。ガキが育つのは早いもんだな」
「は、誰がガキだツンデレ!」
「誰がツンデレだ!それやめろてめぇは!!」
わーわー騒ぎ出す2人を横目に、はあ、と神威と昴流がため息をつく。
ファイは苦笑し、2人へ向けて口を開いた。
「まあまあ、みんな元気そうで安心したよ」
「……この世界に来る前に、小狼達に会った」
「!ほんと?」
「うん。……大切な人の羽根、少しずつだけれど集まってるって」
ぼそり、呟いた神威の言葉を、優しく笑んだ昴流が補足する。
「そっか。良かった」
「ファイの目も、治ってきたんだね」
「うん。もう包帯はいらないってー」
だからこれ、とファイは小さな小瓶を差し出した。
「……これ、は」
「ありがとー、神威君」
「別に、礼はいらない」
そっけなく言い放つと、神威は小瓶を懐にしまった。
その様子を眺めて、昴流がそっと笑みを深くする。
「……ノザが、この世界に行きたい行きたいって、うるさくて」
「え?そうなの?」
「ああ。……仕方ないから、連れてきた」
お前のせいだ。そう言いたげに恨めしげな目が向けられて、ファイは思わず苦笑する。
それからふと、横を向いて――くすりと、笑った。
「……嬉しい、かな」
視線の先には、黒鋼とぎゃあぎゃあ騒ぐその姿。
いつの間にやら肩にモコナも乗っていて、2人をおかしそうに見守っている。
久しぶりに見た彼は、煌めく金髪も凛とした碧眼もそのままに、けれど確実に大人へと成長していて。
ふふ、とファイは思わず微笑んでいた。
「美味しい晩ご飯、作ろうっと」
森の奥、古びた教会のその奥で。
光と笑いに満ちた騒がしいその空間を、優しく石像のマリアが見守っていた。
楽しげに騒ぐ、5人と1匹の姿を。
――そこには、確かに救いがあった。