未来へ
■ ■ ■
「……ってわけで、」
どん、と机に行儀悪く両足をのっけて、由紀が眼鏡を指で押し上げる。
「このNO.6はいよいよきなくさいと思うんだ、俺は」
「きなくさい、って……。その言い方こそおかしいよ、由紀」
「言ってやるな、紫苑。この時代にコンタクトじゃなくて眼鏡を愛用してること自体、なかなか奇抜な趣味なんだから。それも最新のじゃなくて、何のオプションもない普通の眼鏡」
「うるさいネズミ」
向かいの席に座った親友2人が、口々にけなしだす。
紫苑などはにこにこ笑顔で棘を放つのだから、本当に恐ろしい。
「ここ数か月間、奇妙な事故死が多数発生してる。あと矯正施設、アレの実態がかなり不透明だ」
「その情報はどこ発?」
「市長のコンピューターとちょっと挨拶を」
「つまり、ハッキングね」
由紀の言葉を、紫苑が笑顔で通訳する。ネズミが肩をすくめた。
「あんた、相変わらずなのはいいけど足は残すなよ。この地位まで上りつめたとはいえ、今のご時勢、どこに監視の目があるかわかったもんじゃないからな」
「イヌカシが提供してくれるここくらいじゃなくちゃ、カメラも盗聴器も絶対ないとは言い切れないからね」
「提供って言えるほどか?こんなホテルの廃墟が」
紫苑の言葉に、ネズミが鼻を鳴らす。3人がいる部屋は、天井にひびが入り、椅子は古ぼけテーブルもかなり年季が入っている。
市議会議員が3人で話をするには、少しばかり手狭で荒っぽい部屋だ。
「悪く言うなよ、ネズミ。イヌカシは無償で貸してくれてるんだから」
「そりゃお前に惚れてるからな」
「へ?なんて?」
「なんでも」
口の中で呟いたネズミに、由紀がきょとんと首をかたむける。
ネズミはそれ以上何も言わず、ただ紫苑に呆れた目を向けた。あいっかわらず、鈍いこと。
「……しっかし、何年か前はその都市の被験体になろうとしてた奴が、よくもこう大それた計画を思いつくもんだな」
「だからだっての。てかそれ褒めてんのかけなしてんのかネズミ」
「8年前、集められた被験体の行方はほとんどが不明だ。行方を尋ねる声を、上層部はきれいに切り捨ててる」
ばさり、机にのった書類をめくって、ネズミが呟く。由紀が途端に噛み付けば、真顔になった紫苑が不穏な情報を報告した。
「やっぱり、この都市は少しずつ狂い始めてる」
そう言い両手を組んだ由紀が、目を光らせる。
「『NO.6崩壊計画』――必ず、この都市は破壊させる」
凛とした声で宣言した由紀へ、ネズミがうっすら笑い紫苑が頷く。
汚れて曇った窓を、冬の風がガタガタと震わせていった。
「……しっかし、言ってて恥ずかしくないのか。あんた」
「?何がだ、ネズミ」
「崩壊計画、だよ。今時中学生だってそんな名前は付けない」
「いやいや良い名前だろ。な、紫苑?」
「……うーん、正直こればっかりは僕もネズミに賛成かな、由紀」
「え、嘘だろ」
3人の不確かで物騒な計画は―ー未だ、その一歩を踏み出したばかり。
……Fin.