レイニー・ルーム
私は最近、目を閉じると、夢の中で別の世界の少女になっているーー。
「……やあ」
簡素な挨拶に、顔を上げる。
ざあざあと時雨の音がうるさい中、薄ら暗い図書館の片隅。
誰も、人っ子一人いない6人掛けの机のはじに、メノウはひとり座っていた。
広げた分厚い本の前、落ちる影の上。
机を挟んで向かい側、静かに微笑む銀髪の少年へ目を上げて。
「……何の用?」
「キミ、いつもここにいるね」
そっけなく言い放ち、再び本へ目を落とすメノウに、しかし眼前の少年は気にした様子もなくその前の椅子を引き腰掛けた。
「そうね」
「何の本を読んでいるの?」
ぱらり、ページをめくり、メノウは目を本から離さないまま口を開く。
「童話」
「……へえ」
聞いておきながら、大して興味もなさそうな相手。
メノウはひとつ、息を吐くと本を閉じた。
ぱたん。窓を打ち付ける雨音だけが満ちる図書室に、突如響く軽い音。
「……あなたも、最近よくここに来るわね」
メノウの真っ直ぐな視線を受け止めて、
名も知らぬ赤目の少年は、静かに笑みを深めた。
雨音が、いっそう激しさを増したようだった。