アポロンの啓示 | ナノ

*死にたがりの末路*
・シリアス
・チェス主人公
・死ネタ注意





「……死にたいな」



ご飯食べたいな、
くらいの軽さで言葉は零れ落ちた。



【死にたがりの末路】



「……は?」
薄闇の中、碧い目が綺麗に見開かれた。
「…いやあ」
対する俺は、意識して口元を歪めてみる。
「……死にたいな、って」
ぽつり、呟いた言葉は、
でも多分、結構本気だった。
「…笑えない冗談だな」
一蹴したあいつの目元は、言葉程呆れも無く。
むしろ、真剣に見えた。
「…5thバトルで、俺を半死に追い込んだ人間の台詞では無いな」
少なくとも、と付け加え少年は前髪を払う。
常ならはっとする程目の覚めるようなその青色も、ランタンの火を消した今でははっきり見えない。
「…あー、あの時な、」
俺は苦笑し、アルヴィスの顔を覗き込む。
「…いやー、アルヴィスと闘えるーって思ったら、夜とは違う興奮が止まらず」
「…おかしな事を言うな」
「あれ、俺おかしいこと言った?」
夜に関してはお前だって一緒だろ?
そう言うと頭をはたかれた。
いてぇ、と顔を大袈裟に顰めれば、嘘付け、と今度こそ呆れ顔をするアルヴィス。
2人でベッドに並んだまま、
互いの服に手も掛けず。
でも俺のチョーカーはとってあるし、アルヴィスも既に両手のアームは全部外してるしで、詰まる所俺達は準備万端なワケだ。
そこに来て、
雰囲気を壊したのは、
俺だ。


「…死にたいのか?」
やや目を細め、俺を見るアルヴィス。
そんな真顔で聞くなよ。ふざけられねーじゃん。


「…死にたいね」


月光の射し込むベッドで2人、
準備万端ないつもの状態で、
甘さの欠片も無い雰囲気で、
見つめ合う。


踏み込んだのは、自分達。
互いに自分の居場所を知っておきながら。
何度も逢瀬を繰り返し、互いの部屋に連れ込んでおいて。
仲間の前では何事も無いかのように振る舞い、あまつさえ平然と刃を交えた。


「…殺してくれよ、アルヴィス」


アルヴィスの口角が、ゆっくり上がる。


「…なら、リク、」


アルヴィスの手が、ゆっくりと動いた。


「…俺の事も、殺してくれるな?」


疑問形なのにやけに断定的な、
その言葉に、俺も笑みを浮かべた。


踏み込んだのは、俺達自身だ。
お前は司令塔への憎悪と世界への愛を、
俺は司令塔への忠誠と浄化への熱意を、
忘れる程に溺れ切った。
互いに引けない所まで沈み込んで。


明日の最終決戦で全てが決まる。
確実にどちらかが、『死ぬ』未来が来る。
仮に生き延びても、俺達は一緒になれない。
チェスとメル。
どうして其処に、相容れる要素が生まれよう?
誰がそんな未来を認めよう?
大切な仲間さえ、神をも欺く背徳の感情を持って、完全に裏切り続けたのに。


「……ぐっ…」
アルヴィスの手が、
俺の首を絞める。
俺も、
アルヴィスの首に、手をかける。
「……っ…」
アルヴィスの綺麗な顔が、苦しそうに歪んだ。


なあ、どうしてかな。
神様は俺達が出会う時間を間違えたんだ。
もっと早く会っていたなら、
或いはもっと後で出会っていたなら、
俺達の未来は違ったんだろうか?
互いを求める事に深い後悔と悲哀を抱きながら、
互いを愛するが故にこの手で相手を殺す、
そんな終わりに至らなかったんだろうか?
わかんねえな。
そうだ、そんなこと、わかる訳ないよな、アルヴィス。


「……っ、ぁ」
でも、ただ1つ言えるのは。
アルヴィス、俺は、
お前のことが、大好きだったよ。




【死にたがりの末路】
『これが俺達の愛だと言うなら』



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