My lover. | ナノ



エンヴィー、溶ける感情

■ ■ ■


 最近知ったのだが、雲雀恭弥はかなりモテる。


「ねえねえ郁君!最近ヒバリさんとよくいるよね」
「委員会の仕事、一緒にやってるんでしょ?……ちょっと聞き出して欲しい事があるんだけど……」

 今日も何人かの女子に声を掛けられ、郁はまたか、と何とも言えない気分になった。足を止め、仕方なしに彼女達の話を聞く。

 アホ綱吉なんかは「郁って昔からけっこうモテるタイプだったもんね」とひとりうんうん納得しているようだったが、それは違う。勘違いも甚だしい。
 やってくる女子達の魂胆は、ただひとつ――「雲雀恭弥となんとかしてお近づきになりたい」、いっそ純真なほどにただそれだけなのだ。

 かといって本人に直接話しかける勇気はなく(まあそこは仕方ない事を認める)、さらにあの見た目から近寄りがたい(郁に言わせるとそれは偏見なのだが)、他の風紀委員に声を掛ける事もままならない彼女達は――最近これでもかとこきつかわれている自分の元へ、こうしてやってくる。とまあ、そういうわけなのだ。

「……雲雀さんって、何が好きなんだろう」
「クリスマスとか、何か予定あるのかな?」
「もしかして、すでに誰かとの予定があったりして!」
「えっ、彼女?!」「いてもおかしくないでしょ」「ええ、うっそー!」

 話しかけておきながら、郁そっちのけで盛り上がり始めた女子の輪に思わず吹き出しかける。
 雲雀に、予定。彼女。また何とも似合わない言葉が出てきたものだ。

 別にあのルックスだ、いたって不思議でもなんでもないが、いかんせん暴君要素が多すぎる。昨日もうっかりうとうとしてしまった自分を、もう21時だよとトンファーで文字通り叩き起こしたくらいなのだから。

 うーんあの雲雀に彼女か、いたらそれはそれでなんか嫌だなあ、と全く別の事を考え始めたところで、不意に女子の輪がふっとほどけた。なんとなく、と言うにはどこかわざとらしい仕草で、何人かがこちらへ視線を向ける。

「ところで、さ」
「ん」

 おもむろに口を開いた女子の1人が、なぜか小さく咳払いする。それから、こちらを窺うように上目で見てきた。

「郁君は、クリスマス、予定とか……あるの?」
「……は?」

 俺?
 きょとんとして、質問してきた相手を見つめ返す。見る見るうちに赤くなっていく彼女に、ふと綱吉の「郁って、昔からけっこうモテるタイプだったもんね」という言葉が浮かび――え、と思った。

 さすがにそこまで疎くない。郁だって一応男だ。そしてどうやら、綱吉の言う事もあながち大ハズレというわけでもなかったらしく、真っ赤になった彼女の周りの女子がにこにこ――いや、どう見てもニヤニヤしている。
 でもこれって適当に濁したらマズイやつだよなあ。そんな気はさらさら、というよりハナから雲雀目当てだとしか思っていなかったから、予想外の事に驚くより前に気が抜ける。
 ええ、これほんとにどうしようか――案外本気で困ったところで。


「……佐藤、郁」


 突如、くいっと襟足を引かれた。



「?!いたっ」
「もうそろそろ下校時間だよ。君、いつまで無駄話してるの」
「むだ、って、いてて、引っ張んな髪!」
「君達も」

 郁の後ろ髪を手加減無しにぐいぐい引っぱりながら、雲雀が鋭い視線を女子達に向ける。

「下校完了時刻まで、あと3分なんだけど」
「……は、はい!」

 一瞬、固まっていた彼女達は、次には郁が目を白黒させる速度でバタバタと駆けだし――否、逃げ去っていった。

 下校時刻間近、人気のなくなった廊下には、長く伸びる影がぽつんとただ2つだけ。


「……雲雀。髪、離してくれない。はげる」
「やだ」
「え。って、ちょい待て、まじで抜ける!」


 涙目で抗議する郁を無視し、雲雀は最後まで力を抜くことなく、彼を応接室まで引っ張っていった。
 



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