背徳の華 | ナノ



同類

■ ■ ■


その白装束は、
"ボンゴレの華"と呼ばれるゆえんだと言う。


「…でも君は、その服を戦闘時にしか身に付けませんね」
「…?」
突如問われた沙良が、不思議そうにこちらを見上げた。

黒い空。沈む月影。暗い視界。
夥しい数の死体が広がるそこで、骸は背後に音も無く舞い降りた沙良を振り返り、そう言った。
たった今最後の敵を仕留めた彼は、そのあどけない顔に返り血を付け、訝しげに眉をひそめる。

「だから、君のその服装ですよ」
「……ああ」

白い頬に付着する、真っ赤な血糊を親指でぬぐう。
沙良は頬をこする骸の指先を気にした様子もなく、合点がいったという顔をした。

「別に女装趣味なわけじゃないからな。『ボンゴレの華』として動くときだけ、この衣装をまとう。それだけだ」

そう言う彼の目の金色が蕩けている。
どうやら疲れているらしい。そうでなければ『仕事中』の言葉遣いの彼が、こうも触れるのを許すわけがない。

「帰りましょう、沙良。…おぶっていって差し上げますよ」
「んん……」

ゆるり、一瞬迷うような素振りを見せ、
どう見ても少年にしか見えない20歳の青年は、首を縦に振り承諾した。

「…うん。頼むよ、骸」
「ええ、勿論」

どこかおぼつかない足取りの沙良を背負い、骸は軽く足元の死体をまたいだ。


戦闘後の血と煙と熱っぽさとー慣れたそれらは随分馴れ馴れしく疲労の沁みる体に迫ってくる。
つくづくマフィアというものは愚かしい、そう思いながら骸は背中の重みを背負い直した。
黒いリボンのあしらわれた、真っ白なドレスワンピに身を包むー細身のその身体を。


「……沙良」
そっと呼び掛けたが返事が無い。どうやら眠ってしまったようだ。
微かに息を吐き出して、骸は首を回し背後を見た。

背中におぶった彼の顔は、当然見えるはずもない。
だが骸の顔に浮かんだ笑みは、ひどく優しく穏やかでーまるで慈しむかのようだった。



「…沙良、君が望んでいなくとも……」

小さく吐き出された言葉は、消えゆく月影に紛れて溶ける。

「僕は、君を愛しています」




それは奇しくもー雲の守護者が吐いた言葉と、
全く変わらぬ響きをしていた。






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