背徳の華 | ナノ



エピローグ/開花

■ ■ ■


「沙良」
「綱吉」
振り返った彼の目は、笑みを含んでいた。

「…ごきげん、だね?」
「隼人がご飯連れてってくれるんだよ。今晩」
楽しそうに告げた彼の、その首にリボンは無い。
「獄寺君が?」
「うん。なんなら酒も、って」
「な…」

なんならって、と綱吉は呆れた。
間違いなく飲ませる気だろう。 その勢いで何をする気か知らないが、行動派な彼らしいと言えば彼らしい。
…この青年の見た目ゆえ、店側が飲酒を許してくれるとは思えないが。

「沙良、でも君ー」
「沙良」

口を開いた綱吉の背後、低く名を呼ぶひとつの声。

「雲雀」
「今日の夜、獄寺隼人に誘われたって本当?」
「本当。タイムリーだな、今その話題をしていたんだ」
「……へえ」

もう一段低くなった声音に、しかし沙良は少しも気にとめていない様子だ。横で雲雀の表情を見ている綱吉の方が気が気でない。

「…ねえ沙良」
「沙良!」

何か言いかけた雲雀の後ろ、今度は骸が顔を出した。
足早にやって来た彼は、沙良の周りにいる人間を見るなり表情を固くする。

「…沢田綱吉、に雲雀恭弥、ですか」
「何しに来たの、君」
「何しに、って…君こそ何をしてるんですか」

イライラしたように問いただす雲雀に、頬を引きつらせた骸が質問し返す。
バチバチと火花を散らし出した2人に、綱吉はため息をつくと口を開いた。

「お2人さん、落ち着いてー」
「雲雀、骸」

不意に遮った沙良が、笑んだまま一歩踏み出した。


「ーなら、一緒に行く?」


「…え」
「「は?」」
綱吉が呟いた横、そろって振り返る2人。

「だから、隼人と雲雀と骸と、僕の4人で行けばいいだろう?」

そう言い放った沙良が、ふと手首を上げて顔をしかめる。
「…しまった。時間だ」
腕時計から目を放し、沙良は優雅に口角を上げた。
完全に部外者と化していた綱吉が、思わずどきりとしてしまうほど。

「悪いが、僕は今からミルフィオーレに行かなきゃならないんだ。失礼するよ」
「…は?!待ってください沙良、今ミルフィオーレと言いましたか?」
「ちょっと待ちなよ沙良、あの白髪頭が黙ってるわけないじゃない。僕も行く」
「何言ってるんですか君、ついていくのは僕ですよ」

白熱する口論(という名の口喧嘩)を繰り広げながら沙良を追う、2人の守護者を眺め綱吉は再びため息をついた。

「…まったく」

雲雀と骸が足早に追いかける先、
首だけ回して笑う、彼の表情は華やかで美しく。


「……ボンゴレの華、か」


否、沙良の首にリボンは無い。
あの白いフレアも黒のレースアップブーツも、彼の細い肢体を覆う役割の象徴は何ひとつ。
あのー蠱惑的に輝く、金の瞳でさえ。

それでも、と綱吉は思う。
目で追えば、跳ねる黒髪。ひかる黒い目。


それでも、きっと彼はー"華"であり続けるのだ。






ボンゴレファミリー10世代目、
そのアジトの片隅で、
人を惹きつけ魅了してやまない"華"がー今日も、そこにひっそり咲いている。






…fin.





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