ルッスーリアの場合
■ ■ ■
武器庫を出たところで、むんずと腕を掴まれた。
「おっと」
「まあまあ雛香ちゃんじゃない!ベルちゃんが珍しく騒いでたから、本当かしらと思ってたんだけど」
柔らかい女口調のわりに、ぎゅうぎゅうと強く腕を掴みにかかるルッスーリアを見上げ、雛香は苦笑し頬をかく。
「痛いんだけど、ルッスーリア」
「あらあらごめんなさい」
そうは言いつつ腕を握る手は離れない。むしろさらに力が強くなる。雛香は仕方ないなあとただ笑みを深めた。
「今日は雛乃ちゃんは一緒じゃないのね」
「雛乃は山本と日本で任務。俺が今一緒なのは雲雀」
「…まあ、それはまた」
つらつら答える雛香の言葉に、ルッスーリアが口端を上げる。
「え、何」
「ベルちゃんが聞いたら嫉妬しそうねえ」
「ははっ、ベルが?そりゃ面白いな」
んー、とルッスーリアは立てた小指を唇に当てる。
冗談じゃないのだけれど、とは思ったが、まあそこは自分が出しゃ張るとこではないだろう。
「ところで、その相方は?」
「ああ、雲雀?さあ。置いてきたし」
「あらあら、それはまたどうして」
「俺と雲雀は案外適当だよ。あいつ群れるの嫌がるし」
「相変わらずねえ、あなた達」
いろいろな意味を込めての「相変わらず」だったのだが、おそらく雛香には伝わらなかったのだろう。彼は「まあね」と快活に笑っただけだった。
「ルッスーリアも元気そうで、安心した」
「私はいつだって元気よ。雛香ちゃんも元気そうで、安心したわ」
「ふふ、ありがとルッスーリア」
うっすら、雛香が笑う。10年前にここにいた時とは、比べものにならないほど綺麗な笑みだった。楽しげな、優しい微笑み。
そりゃ10年も経つものそんなものよね、とルッスーリアは暖かく雛香の顔を見下ろした。相変わらず背丈は低いが、それでも彼にしてはかなり成長したと言えるだろう。
「…まーた、ベルちゃんやボスが煩くなるわねえ」
「?なんか言ったか、ルッスーリア?」
「いーえ。ああ、フランちゃんにも気を付けた方がいいかもね。あの子ああ見えて、きっと結構肉食系よ」
「…何の事言ってるかわかんないけど、すでにキスはされたぞ」
「?!えっ、うそでしょ?!」
「…うんやっぱゴメン、嘘ってことにしておいて」
「えっちょっ、雛香ちゃん?!どこに行くのよ、行くなら真相を教えてからにしてちょうだい!!」