お題 | ナノ
2人の宴

■ ■ ■


「…伊織くーん」
「やあ、ファイ」
ニッコリ。擬態語が音となって出そうな笑顔で、彼は笑う。
その手からトン、とカウンターに置かれたグラスを見て、歩み寄ったファイは苦笑した。
「まーたココで飲んでたんだねぇ。お酒、好きなの?」
「うん。好きだよ」
唇は弧を描きながらも言葉は簡素。いつも通りな彼の態度に、ファイはすっかり慣れっこだ。
「マスター、オレにも一杯。あ、隣の彼と同じやつを」
「…ファイ、飲むのか?」
するりと伊織の隣に腰掛ければ、再びグラスを煽った彼が目を開く。
「うん。今日は伊織くんと飲み明かそうかなー、って」
「…ふうん」
「お邪魔ー?」
「いや、」
そこで微妙に一拍空けて、伊織はうっすら笑って見せた。
「…ただ、腹に一物抱えてる者同士では、楽しめないだろうと思っただけだよ」


「……あー」
目の前に置かれたグラスを視界の端に収めつつ、ファイは口を開く。
「伊織くんも、自覚はあるんだね?」
「なんの」
「カクシゴトしてるって自覚」
ファイの言葉に、伊織はくっと口角を上げた。
「ファイに言われたくは、ないかな」
いつもと違う挑発的な彼の笑みに、ファイは、そうとだけ呟いた。
前へ向き直り、透明な液体の注がれたグラスを見つめる。
酒の効果だろうか、伊織はいつもよりーほんの少しだけ素に近いような、そんな気がした。

小狼、サクラ、黒鋼、モコナ、自分、そして伊織。
同じ旅の仲間としてあちこちの世界をずいぶん一緒に渡り歩いてきたけれど、彼は自分達との間にいつまでも一線引いたままだった。
それはファイ自身も同じだったが、−まさか、見抜かれているとは。

「…じゃあさー」
へにゃり、ファイは相好を崩して、グラスを手に持ち横を向く。
「?」
「今夜は潰れるまで酔ってさ、……互いの本性、さらけ出した方が負け、なんてどう?」
数秒、伊織はきょとん、とこちらを見つめ、

笑った。


「…いいよ。ファイの腹、俺が暴いてあげる」



カチン、とグラスが触れ合う音が小さく響き、
嘘吐きな2人のささやかな駆け引きが、今始まった。

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