黒に堕ちる | ナノ

司令塔、お気に召したようで
ウォーゲーム、ファーストバトル開始。
それを、自分はレスターヴァで見ているだけの予定だったのだが。



「はいこれ、よろしく」
語尾に音符を付けそうな勢いでにっこり微笑む司令塔。
今日も素敵な笑顔だな、この野郎。
内心の悪態などおくびにも出さず、ノアは無表情でファントムからダイスを受け取った。
「…これを、ポズンに?」
「そうそう」
なんでも、ポズンが今持っているダイスは問題があるだとかなんだとか。
「今更だけど、1とか2の目ってあっても面白くない事に気が付いて」
本当に今更である。
しかも面白くない、というのはファントムの完全なる主観でしかない。
命を賭けたウォーゲームに面白い面白くないだのと、本当に頭がイカれている。
ノアはダイスをポケットに放り込むと、冷めた目でファントムを見返した。
「…じゃあ」
何も言わずに出て行くのもアレなので、一応ひとこと言い残す。
そのまま玉座の間を出ていこうとしたノアだったが、
「ノア、ちょっと待って」
ぱしり、と取られる右腕。
は。
振り返ると、滅茶苦茶近くに紫の瞳。
いや待て、お前が待て。近い。
「なっ、なんなんだ」
「……」
無言でこちらの顔を覗き込むファントム。
やめろ、なんか言ってくれ。
ていうか真顔で見られるとかなり怖い。心臓に悪すぎる。
本当に一体なんなんだ、自分で呼び付けてダイスを押し付けといて。僕はレスターヴァで1人、アームを使って悠々と試合を見学するつもりだったのに。
ぎゅう。



「……へ?」
状況を把握するまで数秒かかった。
ファントムに抱き締められているのだとやっと理解する。
理解して、頭が真っ白になった。

え、なにこれ。
ドッキリ?なんの罰ゲーム?

突き放すことも逃げ出すこともできないまま、ノアはファントムの腕の中でただただ目を見開いていた。
するとその時、
バンッ「ファント」
ム、とやたら聞き慣れた声が背後からご登場。
しかし声の主は完全に固まってしまったらしく、扉を開けた音以降、後ろから何の物音もしない。
うん、わかるよペタ。
とノアは声に出せずに呟いた。
だって僕も固まってるから。


「……ファ、ファントム?!何をされてるんですかっ?!」
しかしそこはゾディアック作戦参謀、自分なんかと違ってすぐさま凍結から脱出したらしい。
こちらに大股で近づく足音。
すると、何を思ったか頭のネジが抜けた司令塔は、こちらの背中に回していた手を両肩にのせ、くるりと半回転。
ノアはこちらに近付いてくるペタとご対面。この間約2秒。
さすがだなNO.1ナイト、とか言っている余裕は無い。なんせペタの顔がとてつもなく怖いから。やばい、何か憑いてるって絶対。
「ノアがかわいくて、つい」
今度は語尾にハートマーク。ノアには見えないがおそらくいい笑顔をしているのだろう。というか人の頭にあごをのせるな、痛い。
「何がつい、ですか」
「……ペタの気持ちもわかるよ」
ノアのきっかり3歩前で立ち止まるペタ、意味不明な言葉を発するファントム、そして2人の間に流れる何やら不穏な空気。
え、待った待った。僕はこの状況が全く理解出来ていないのだが。
「…と、とりあえず!」
ノアは声を張り上げ、身をよじってファントムの腕から抜けた。良かった、意外とあっさり離してもらえた。
「僕は、これをポズンに渡してくるから!」
2人に向かってそう叫ぶと、ノアは今度こそ扉に一直線。
そのまま廊下に出た途端、アンダータを一瞬で発動させた。
これ以上、あの訳の分からない空間にいられる気がしない。




『司令塔、お気に召したようで』




「…ファントム、他にも何かしていませんよね?」
「ペタって本当面白いね。意外とわかりやすい」
「話を露骨に逸らさないでください」



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