君に贈る
「……ノア」
呼びかければ、彼女が振り返ってくれるような気がした。
そんな訳、ないのに。
視線を落とす。
草深い木立の中にひっそりと佇む、
真っ白な墓標。
「チェスの残党もほぼいなくなった…メルヘヴンは、平和を取り戻しつつある」
呟いて、なんて虚しいんだろうと思った。
だって、
それは彼女が求めていたものとは違うだろうから。
「…でも、俺はね」
目が痛くなるほどの白に、呼びかける。
彼女の顔に、姿に、笑みに、
思い浮かぶ全てに、声をかける。
「メルヘヴンの平和を取り戻す、クロスガードだから…」
正義と、平穏を。
彼女が黒なら、自分は白を。
「…また来る、ノア」
そう言って、背を向ける。
誰も聞いていないのをわかっていながら。
生い茂る木々の中、ひっそりとその墓は立っている。
その横に白い包帯と黒い帽子の置かれた、
白い白い石の墓標が。
黒に落ちた1人の少女のためにたてられた、
真っ白な墓が。
…end