今宵、ここで君を殺す | ナノ
5

一瞬だった。
一瞬でーその細い体を組み倒した。

『……は?』
白いベッドカバーに沈みこんで、彼は目をしばたかせた。
あぜん、では無かった。ぼうぜん、でも無い。
驚きと動揺、そして不安。
そう、その顔に鋭い不安の影を一瞬、横切らせー燈夜は、まばたきを繰り返した。

『…な、んだよ雲雀』
『……わかんない』
『は?』
『だから、わからない』

相手がまばたきをした。自分の体の下、今度こそその顔はあぜんとした物に変わっていった。

わからなかった。
ただ自分の部屋でもそもそお菓子にかじりつく彼を、微妙に下げられた視線と茶菓子を握る両手と、そのやけに小さく見える正座姿に、

気が付けば押し倒していた。


『……は?何お前、まさか』
『まさか、って?』
『…ここまでしといて…なんもしないの?』
見下ろす。
ついた両腕の真ん中、自分の影が落ちるその顔を見つめる。

ふいに、口元が緩んだ。

『…ああ、そう』
手を軽くあげ、指先で顎を捉える。
『…何か、されたかったんだ?』
見る見るうちに、眼下の顔は赤く染まった。
『…ち、げえ!んなわけあるかっ』
『ふうん』
ほんと、なんなんだろうこの子は。
心中でつぶやいて、思わずにやりと笑った。
あわあわと顔を赤くし視線を逸らす、その姿をなぜか可愛いと思う。くすくす笑いながら、そう思った。
『…ねえ』
顎をくいっと指で上げる。
ぎょっとしたように燈夜の目がひらかれる。

『…今さら、嫌だなんて言わないでしょ?』

何か答える前に、その口を塞いだ。








『ふう…う、あぅっ』
自分の下、顔をゆがめ燈夜が唇を噛む。強く噛む。そのわりに時たま口の間からあっけなく声が漏れる。
あがる声は多量の吐息をふくんでいて裏返り気味で、高いそれはますますこちらの熱を煽った。
『…燈夜、』
『ひっ、は、ああ、』
『なまえ、呼んで』
『はぅ、あ、…な、に』
『…名前、で』
『あ…っ、あ、う、』
こちらの首に腕を回す、彼にこの声はもはや聞こえていないのかもしれない。
荒い呼吸に目を細め、舌を出し白い首筋を強く吸う。
途端、わかりやすく細い肩が跳ね上がる。
『っ、あ、まっ、』
抵抗の言葉を無視する。口先だけだなんてわかっている。苦痛にゆがみながらも、快楽をチラつかせる彼の瞳に嘘は無かった。
涙のつたうその目元にキスを落とす。
好きだよ、と声に出さずに言い、一気に腰を落とした。

涙を流して目元を真っ赤に染めた、
その顔はやけにくっきりと脳裏に焼き付いた。





冬が、終わる頃だった。


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