今宵、ここで君を殺す | ナノ
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今宵、ここで君を殺す。








暗く、どこまでも深い黒の中で、2人の青年は対峙していた。

「……なぜ、燈夜…」
そう言い、雲雀恭弥は切れ長の目を細める。
向かい合う青年は、何も言わずにただ微笑んだ。
哀しみ、歓び。
相反するはずの感情を同時に感じさせる笑みを。


対峙する2人の手には、
互いに向け合い黒光りする銃口。



「…なぜ、沢田綱吉を裏切った」
かすかに湿りを帯びた声音が、暗い空間に響く。
周囲には何の物音もしない。
向かい合い銃を突きつけ合う、2人の微かな息遣いしか。
「……答えろ、日野燈夜」
詰問されても青年は口を開きもしなかった。
ただ、笑んでいるだけだった。
その貼り付けられたわけでも作り物でもない微笑みに、雲雀は余計に苛立ちを覚えた。



わずかな月光しか届かないこの空間にいると、その真っ黒い中に白い棺桶が鮮明に浮かんでくる気がする。
まだ数時間前、銀髪の右腕が縋り付き嗚咽していたその棺桶。脳裏に鮮やかに浮かぶのも当然だーいやというほど、目に焼き付いたのだから。
真っ白な花々に埋もれて眠る、小さく細いその肢体は。


「…君は、彼によく尽くしていたはずだ」
疑問を投げかけても相手は答えない。
ゆるりとした笑みを浮かべているだけで。
「なぜ、裏切った…敵に、彼を差し出した」
笑みに合わせてかたどられた、その黒い目からは何も読み取れない。何も感じない。
なぜ、どうして、何の理由があって、よりによって、君がー。

「きょうや」

一瞬、それが己の名前だと気が付かなかった。
微かに微笑む彼の口からこぼれた言葉が、自分の名を呼ぶものだった、とは。
「…と、」
思わず応えるように相対する彼の名前を呼びかけて、止まる。


どこの隙間から入りこんだのか、涼風が頬をかすめていった。



そうだ、思えば彼を見かけたのはこの季節だった。
もう何年も前、桜の花が舞う季節。
忌々しい思い出しかないあの薄桃色の花弁が散る中で、

僕は、初めて君を見た。


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