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最後に

■ ■ ■


※全部すっ飛ばして最終話




「知っていた」
 雲雀が俺を見る。その黒色がよく見えなかった。
 遅れて気が付いた。
 にわかには信じ難い事だが、俺は泣いているらしい。
「でも、黙っていた。他の連中は気が付いていないようだったし」
「なぜ……」
「さあ」
 ザッと、雲雀が一歩近付いた。手が伸びてくる。
「さあ。強いて言うなら、言いたくなかった。からかな」
「言いたく、なかった……?」
「そうやって馬鹿みたく僕の言葉を繰り返すクセ、治らなかったね」
 黒い瞳が細くなる。笑んでいるのだ。
 雲雀は微笑んでいた。俺の頬を両手で包んだまま、顔を覗き込むようにして。
「……帰らないと」
 俺は何とかそう言った。今の俺は小さな子供みたいだった。しゃくりあげるのが止まらない。
「なぜ」
 屋上を吹く風は微か冷たかった。密やかに光る月のように。

「……俺は、ここにいてはいけない。俺は、……雲雀と同じ世界には、いられないから」

 雲雀は黙っていた。俺の頬を包む手は、どくどくと脈打っている。
「……そう」
「……怒ってないのか」
「怒る?僕が?どうして」
「今回の騒ぎは、……全部、俺が引き起こしたのに」
「どうでもいいよ。そんなこと」
 きっぱり言われた。俺は驚きを通り越して目を白黒させる。
 やっぱりこいつ、たまにわけがわからない。

「君に逢えたんだから」

 あたりは静かだった。張り詰めてはいない。ただ、穏やかな静けさ。
 俺は黒い瞳を見つめ返した。雲雀も俺の目を見ていた。
 初めてだ。初めて、”本当に雲雀の目に俺が映っていると思った”。
「……雲雀、」
「何」
「……お前、意外にこっぱずかしい事言うんだな」
「咬み殺すよ」
 俺は笑った。そのまま、雲雀の手に自分の手を重ねる。
 するり、促すように滑らした。雲雀はされるがままに手を下ろす。

「……逢えてよかった」

 雲雀の手の無い頬は、冷たい。
 死者は温度を感じないなんて嘘だ。少なくとも、俺には。
「君も大概じゃないか」
「煩いな」
 片手を上げる。雲雀も一瞬ののち、右手を上げた。


 それが、最後だった。


 明確な別れも言葉も告げなかった。
 多分、それでよかったのだ。俺と雲雀の間には。
 きっと、それで。




補足という名の蛇足。
 雲雀×人外夢主。
 夢主が幽霊で、並中の化け物騒動を起こした原因という展開。雲雀はうすうす勘付いていたけれど何も言わなかった。夢主は雲雀と幼なじみで、自分は生きていると思い込んでいた。
 不慮の事故で亡くなった夢主が並中に取り憑き、雲雀に心を寄せるうちに実体化、と使いきれなかった設定をここで消費。
 なんちゃってホラー物。




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