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これにて開幕

■ ■ ■


 5月某日PM8:00、並盛中の校門前で、雲雀と俺は突っ立っていた。



「3回目だ」
 雲雀が刺しそうな目で俺を見る。実際、3回目だ。並盛中から離れようと歩き回って3回目。
「そうだな」
「意味がわからない」
 雲雀が髪をぐしゃりとかき上げる。一見ヒステリー患者みたいに見えなくもないのだが、このイケメンがやるとまた別だ。こんな夜明かりの中でさえ絵になって見える。
「俺もわからない」
 「現状把握をしよう」と雲雀が手を下ろした。同意意見は求めてません、って顔だ。俺はただアメリカ人よろしく肩をすくめる。
「現状把握?」
「僕らは夜の見回りをしていた。いいね?」
「夜ってか深夜だけど」
 俺は一応あたりを見渡し申告する。街灯以外、全部が真っ黒に見える。
 雲雀は無視した。
「途中で僕が気が付いた。同じ道をぐるぐる回っていると」
「先に言ったのは俺だ。なんかおかしい、って」
「そして道が開ければ並中の前に来ていた」
 「おかしいだろ、僕達は並中から出てきたのに」と腕を組んだ雲雀が言う。細い指先が黒い袖をトントン神経質に叩いていた。俺の言葉の余計なところは、とことん省いていくつもりらしい。ひどいものだ。これが幼なじみに対する仕打ちか。
「おかしいな」
「これで3回目だ」
 雲雀が俺を見る。話も回って頭に戻ってきた。
「どうすればいいと思う」
 まるでカーナビにでも尋ねるみたいに静かに聞かれる。真顔なあたり怖い。たぶん、雲雀にとってはカーナビに聞いている気分なんだろう。実際。
「俺がわかると思うか?」
 夜闇に燦然とそびえ立つ並盛中をバックに、雲雀が眉をつり上げた。役立たず。
 言いたいことはそれだけか。俺は無言で雲雀の黒い瞳を見つめ返す。というか睨んだ。
 「役立たず」雲雀がはっきり口にした。こいつ。
「とりあえず歩き出そうか」
「4週目をしたいのか?」
 俺は信じられない思いで雲雀を見た。何年越しかの付き合いだが、この男はたまに本気でわけのわからない事を平気で口にする。
「死にたいの?」
「誰が」
「君が」
「俺が」
「そう」
 不毛だ。このやりとり自体が。ハッキリわかった。
 雲雀にもわかったらしい。うんざりしたようにため息をつき、それから雲雀は後ろを見た。やっぱり凛とそびえ立つ、並盛中の校舎を。
「今度は外を回るんじゃない」
「ほう」
「並中の中に入るんだ」
 決然と雲雀が言う。俺は困惑した。
「……なかに?」
「中に」
「どこの」
「並中の」
 さっきからそう言ってるだろ。雲雀の目が険を帯びる。
「いやいやだって、」
「これ以上見回りの妨害されるのは癪だ。ならこちらから踏み込む」
「並中の中へ?」
「ああ」
 名案だろう、みたいな顔で雲雀がこちらを見る。
「……いや、どう考えても失敗案だろ」
「何が?」
 こいつ何言ってんだ。雲雀の顔から10字で内心を表せばそうなる。あながち間違ってない。
「何度歩いても離れても、並中の校門前に案内されるんだ。間違いない、これはアレだ、」
「誘導?」
「いや、宣戦布告」
 きぱっと雲雀が断言する。目がらんらんと輝いていた。獲物を前にした肉食獣な感じ。
 対する俺は空を仰ぐ。絶望的な気分だった。
 最強最悪な風紀委員長と同伴。夜。目の前には闇にどっぷり沈んだ並盛中。
「……どんな状況だよ」
「は?」
 隣で最大の元凶が首をかしげる。そんなかわいい仕草ではないが。
 どちらかというと見定めてるみたいな感じだ。獲物の大きさを目測中、みたいな。
「何が不満か知らないけど、ほら行くよ」
「しいて言うならこの状況すべてが不満だ」


 かくして、俺と雲雀恭弥は、夜の並中へ侵入することになったのであった。




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