Blood&Tears | ナノ
Encounter
『恭弥のこと、俺は嫌いじゃないよ』


あまりに自然に言われた言葉に、
さしもの雲雀も数秒止まった。
『……は?』
『だからそんな落ち込むなって』
な、そう言ってにっこり、というよりは明らかににやりと笑う、そのバカみたいな顔を見つめ返す。
『…誰に向かって口きいてるの?』
『だって恭弥が言うからだろ』
『何を』
『どうして群れというのは、僕を見ると一斉に怯えるんだろう、って』
『…何その下手な声マネ』
『えっ上手かっただろ』
『どこが』
咬み殺すよ、そう言ってトンファーをかまえれば、
ふざけんな、そう言って笑いナイフを出す相手。


だって恭弥が言うからだろ。


言った。
確かに、言った覚えはある。
だがそれは、所詮疑問でしかない。
なぜそれが自分が落ち込むなんていう、曲解した答えにたどり着くのか。


『俺はきっと、どんな恭弥にも怯えないよ』
『…それ、なんていうか知ってる?』
『馬鹿?』
『そう』
よくわかってるじゃないか、そう言ってトンファーを振り下ろせば、瑠久はなぜかおかしそうに笑った。

『じゃっ、俺はきっと馬鹿なんだ』

そんな風に無邪気に言って微笑んだ、
その瞳に。

きっと、既に惹かれていた。





昼下がりの日光が射し込む廊下、
だだっ広いわりに誰も通らないそこを歩く。
授業中の教室は、静かで何の気配もしない。
ふと顔を窓に向ければ、
その向こうで、パタパタと羽を上下させる黄色が見えた。

「……君、どうしたの」

窓を開けてやる。
珍しい、いつもこの子は応接室にしか来ないのに。
「何、お腹でも減ったの?」
あいにく今は何も持っていない。
どうしたものかな、目線を落として学ランのポケットを探っていれば、

「…ルク!ルク!」

うっかり、学ランを肩から落としそうになった。

「……ちょっと、君」
今ここでその名を呼ぶか。
悪意があるんじゃないかと疑いたくなりそうなタイミングに、雲雀はむっとして顔を上げる。
だが、そこで。

「ちょっ、ヒバード、急に飛んでくなよ」

パタパタ、コンクリートを駆ける軽い足音。
ききっ、と音が聞こえそうな急ブレーキを踵でかけ、
角から現れ出た相手は窓の向こうで立ち止まった。
ぴたり、不自然な体勢で硬直したそのままで、
黒い瞳が大きく見開かれる。


「……きょう、や…」


かすれた彼の声で紡がれたのは、
何日かぶりに聞く、己の名前だった。




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