子ども組の前夜 …今日は前日じゃなかっただろうか。 「くっそ、いってー……」 ぶつぶつと呟き、雛香はむっすり頬をこする。 その頬にでかでかと貼られているのは大きな絆創膏だ。貼った相手が雑なせいで、わりとゆがんでいたりする。 ほらこっち向いて。君、今日宴会なんでしょ。 つながりがあるのかないのかよくわからないようなことを言いながら、目の前で膝をついた相手を思い出す。 こちらに絆創膏を持つ手を伸ばし、顔を覗き込んだ切れ長の瞳。 …君、ほんと昔から変わらないね。 は?何だよそれ。 なんでもないよ。 聞き返そうとした瞬間、視界いっぱいに綺麗な顔が広がって、思わず言葉を飲み込んでいた。 優しく頬に触れた手先。 貼られた絆創膏の上から、ゆるくなぞり落ちた指先の温度。 「……だー…」 無意味な声を発し、1人廊下を歩く雛香はとっさに両手で顔を押さえる。 発火していく顔の温度をはっきり感じながら、本当にどうしようもないな、と小さく呟いた。 ー君、ほんと昔から変わらないね。 そんな言葉に安堵を覚えてしまうあたり、 自分は本当にどうしようもないと思う。 ミルフィオーレ乗り込み前夜、食堂を使った大宴会。 …の、はずが、ギリギリまで雲雀と修業(という名の激闘)を行っていた雛香は、遅刻確定で食堂にすべりこむはめになった。なんとも良い迷惑である。 「で、オマケに手当てざついし…」 むすっとしながら袖をまくる。 その下から出てくるのは、緩く巻かれた白い包帯。 時間がやばいんだけど、と悪態まじりに噛み付いたところ、あっそうと鼻を鳴らされ巻かれたものだ。 これがまた良い迷惑で、おかげさまで雛香は宴会後、誰もが寝静まり返ったこんな夜更けに部屋を出てくるはめになっている。あちこち痛んで寝つけやしないのだ。 「……ぜってーわざとだ、あいつ」 ぶつぶつ呟きながら、薄暗い廊下を進む。 このまま行くと治療室に着く前に迷うのは必須なのだが、雛香はまだそこに気が付いていない。 ータッタッタッ… 「…?」 背後から、足音。 眉をひそめて振り返れば、薄暗い廊下の向こうからぼんやりと白い人影が浮かび上がってきた。 それはこちらに近づくにつれ、明快になり、そしてー 「あ、隼人?」 「雛香?」 肩で息をし目を丸くする、銀髪の少年の姿になった。 |