偽りのツバサ | ナノ
出発進行!

「いやだ!!」

 春香の叫びが響き渡る。
 瑠依は困った笑みで頬をかき、その横でファイがへらっと笑った。

「領主の城には秘術が施してあるしね。危険だよ〜」
「承知の上だ!一緒に行く!!」
「んー、困ったなあ」

 ちらっとファイが流し目を送る。だが振られた黒鋼もふいっと横を向いた。

「俺ぁガキの説得はできねぇからな」
「ん、なに黒?俺への告白?」
「お前はその都合よすぎる耳をどうにかしろ!」

 ガキはガキでもお前じゃねえ!と、吠えた黒鋼を笑顔でいなし、瑠依はひらり、片手を春香に向けて振る。

「俺も同感かなぁ。その可愛い顔に傷でも付いたらと思うと心配で俺の呼吸が止まる」
「いっそ止まれ」

 黒鋼の物騒な発言を背後に、いっそふざけているのかと思うほど場に合わない瑠依の発言。
 だが、春香は聞いた様子もなく、ただその顔をぐしゃっと崩した。

「行って領主を倒す!母さん(オモニ)のカタキをとるんだ!!」

 他の面子があてにならない事は、十二分に悟ったらしい。春香はぐっと小狼の腕を掴み、縋るように叫んだ。

「絶対一緒に行くからな!いいだろ?!小狼!!」

 泣きそうな春香の声に、小狼はじっとその目を見つめ返しーー。

***



「……言えばよかったのにー。春香ちゃんを連れていかないのは、これ以上迷惑かけないためだって」

 にこり。首を傾け、ファイは歩く小狼の顔を覗き込んだ。

「オレ達みたいな余所者泊めて、一緒にいる所も見られてる。その上連れ立って城に乗り込んだら、」
「マガニャンもビックリのお仕置き展開が始まっちゃうこと間違いなし!だろうな」
「うーん、瑠依君って真面目な空気出したら死ぬとかそういう体質なの?」
「ゴメンなさいファイの目が怖い」

 そもそもマガニャンもびっくりのお仕置き展開ってなんだ、と呆れ顔で言う黒鋼に、いやマガニャンにあったんだって、可愛いヒロインがゲスい悪役に捕まっちゃうっていうハラハラドキドキ展開が、となぜかキラキラした目で伝える瑠依。


「……ま、とにかく、その領主とやらをやっちまやぁいいんだろ」

 瑠依のよくわからない説明を見事に無視し、黒鋼がニッと凶暴に笑う。

「で、サクラちゃんの羽根が本当に領主の手元にあれば……」

 モコナを肩にのせたファイが、口角を上げる。

「取り戻します」

 きっぱり、小狼が宣言した。


「……ヤバい、ほんと3人ともイケメンだな……!」

 その背後、両手で顔を覆い身悶えする瑠依。

「お前は何をしてるんだ……」
「いや……ほんとイケメンズルい……!発言までイケメンとか……マジで何なの?俺殺す気なの?」
「……あ、あの、瑠依さん」
「放ってあげよう小狼君、アレ発作みたいなものだから」


 こうしていまいち統率に欠ける中、4人と1匹はいざ領主の城へと進みだした。


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