偽りのツバサ | ナノ
対価と秘密と嘘ばっかり

 屋根も修理し終え(ほとんど黒鋼がなんとかした)、春香の家にあったなにやら面白そうな盤上ゲーム(白い駒と黒い駒で遊ぶものだった)を楽しんでいたところへ、ひょっこり3人は帰って来た。

「おかえりー、どうだった、何か――」
 言いかけ、ファイは3人の顔を見て言葉を切る。
「……あったみたい、だね」

***



 偵察に出た3人は、賭博(ネギ)に参加して全勝し、服や食べ物を手に入れと、なかなか楽しく歩き回っていたらしい。
 だが、そこで――。

「そっかー、また領主とかの「風」にヤラレたんだー」
「こんな……こんなキレイな小狼の顔に傷を付けるとか……」
「頼むから落ち着けガキ」

 うーんと頬杖をつくファイの横、頭の後ろで腕を組む黒鋼が呻く。
 領主の「風」にやられて怪我をした小狼をサクラがかいがいしく手当てするその横で、瑠依はプルプル肩をわななかせていた。

「……切り傷とか……一生痕が残ったらどう責任取るつもりなんだよ!」
「またバカなことを……」
「黒、これは一大事だからな!小狼を傷物にするなんて……!」
「「キズモノ」」

 無視するつもりだったらしいファイもこれには無理があったらしい。黒鋼と声が見事に被る。

「あの、瑠依さん……おれなら大丈夫なんで」
「俺も大丈夫だよ小狼、もし一生傷が残っても俺ならいつでも待ってるから」
「待ってるって、瑠依、何をー?」

 聞く勇気が出たのはモコナのみ。

「もちろん、小狼をお嫁にもらううげっ」
「ナイス黒ぴょん、ところで春香ちゃん続きいこっかー」
「……あ、ああ」

***



《……なるほど。その秘術とやらを破って城に入りたいと》
 光の中に映る侑子が、それまで聞いていた話を要約する。

「そうなんですー。羽根があるか確かめたいんですけど、なんか仕掛けがあって入り込めないみたいだから」
 
 どうやら羽根と関係がありそうな領主のねぐら。
 しかし侵入するには難が有る、そこで彼らはモコナを介して侑子に助けを求める事に決めたのだ。
 へらっと笑った瑠依を見て、侑子は無表情に唇を動かす。

《……でもあたしに頼まなくても、ファイと瑠依は魔法使えるでしょう?》
「ええだって使い方忘れちゃったしー」
「あなたに魔力の元渡しちゃいましたしー」
 答えた声がきれいに被る。
 背後で黒鋼がピクリ、眉を動かしたがへらへらコンビは侑子を見るだけ。

《あたしがファイから貰った対価は、「魔力を抑えるための魔法の元」。そして、瑠依から貰ったのは「一切の魔術の使用を不可能にしていた、禁呪の術印」》
「わー、オレ達似たようなモン対価にしてたんだね〜」
「やっぱコレって運命かもな〜」
「魔女、話続けねぇとこいつら延々と盛り上がるぞ」

 黒鋼が目を押さえる。侑子はただ肩をすくめた。

《珍しいわね、瑠依。あなたの大好きな美形を手助けできるチャンスなのに》
「うわあ……侑子さんが俺の扱い上手くなってる……!」

 頭を抱えだした瑠依を見、黒鋼が初めて尊敬のまなざしを侑子に向けた。
 ちなみに「いーい春香、ああいうの残念なイケメンって言うんだよ〜!」とモコナが嬉々として語っていたのは、誰もあずかり知らぬところだったりとか。

《ファイも、あなたの魔力そのものを対価にしたわけではないわ》
「まあでも、あれがないと魔法は使わないって決めてるんで〜」
「俺もまあ、美形は惜しいけど、使わなさすぎてちょっと怖いトコあるし。それに、肝心なとこで魔力尽きたら困るからなあ」
「……肝心なところ?」
「うん、」
 黒鋼が眉をひそめて口を開く。かわるがわる答える2人の言葉は、どこか意味深でほの暗い。
 そう思って尋ねたのだが――


「――ホラ、ここ1番の美形に出逢えた!って瞬間とかにさ!!」


 非常に通常モードの瑠依の声に、黒鋼の肩をはじめ、場の空気は一気にガクッと下がった。


***



《……瑠依。あなたの魔力は、そうそう――》
「侑子さん」

 ファイの魔法具を対価に手に入れた、秘術を破るという球。
 受け取った小狼を中心に盛り上がる中、光の中に浮かぶ侑子は瑠依へと目を動かした。
 だが、彼女が最後まで言い終えるその前に、笑顔で瑠依が完璧に遮る。

「ありがとうございます」
《……、》
 あなたは。
 小さく侑子が呟いたが、瑠依はそれすら聞こえないふりでただ微笑んだ。



 あなたの魔力は、尽きるほど少なくないでしょう。

 侑子が独り言のように言ったそれに、彼はただその瞳を煌めかせるだけ。


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