夢の世界に溺れる | ナノ
6thバトル、いざ臨め
「……おはようございますメルの皆さん!今日は6thバトル、よくここまで進みましたね」
「ありがとうポズン」

 にっこり、いつもの前向上に笑顔を向ければ、途端に固まるポズン。引き攣る目元。
 1秒後、硬直から戻ったポズンがダイスを振り出すのを眺め、俺は思わず首を傾げた。
 いや俺、そんな何かした覚えないんだけど。

「……たくさんしていると思うが」
「んー?」


△▼




 来ました、キノコがドーン。
 俺のテンションも一気にどーん。
 なんせ真横に煩いおっさんが1名だ。どうやったってテンションが上がる、そんなわけが無い。

「なんだシー、おめー今失礼なこと考えただろ」
「いやまっさかあ、このニコ中おっさんいっぺん負ければ面白いのに、だなんて」
「このゲーム終わったら覚えてろてめー」

 口の端をぴくぴくさせるおっさんに、最早無言で俺の頭にチョップを繰り出してくるアルヴィス。いや、だから痛いってのアルヴィスさん。
 俺は頭を抱えながら(なんか勢いが強くて頭から煙とか出てる気がする)、フィールドの端から端まで見回した。うん、なんだろうなココ。

 6thバトルは6vs6、フィールドはキノコフィールド。
 なんか拍子抜けするようなフィールド名だけど、俺が適当に付けたわけじゃない。だってポズンが言ってたんだ、つまり公式設定だ。それに俺なら多分、キノコとかより「もこもこフィールド」ってもうちょい抽象的な名前を付ける。

 俺達の前に広がるのはキノコ、キノコ、キノコ。ジャックがいたら頭を抱えて嬉し泣きしそうだ。
 ちなみに俺はあんまり楽しくない。だってギンタが騒いでる通り、多分目の前のでっかいキノコで闘えって言うんだろ?フィールド狭すぎ。

 砂漠フィールド楽しかったなあ、なんて頭の後ろで腕を組んでぼやく俺の横、ふとアルヴィスがこちらへ右手を伸ばしてきた。え、何アルヴィス。
 最近(アルヴィスにしては)過剰なスキンシップが多いから、俺としてもなかなか意識してしまうんだけど。いやそれはいつものことか。

「珍しいな。閉めているだなんて」
「へ?」
「上着のジッパーだ。お前、以前はよく開けていたのに――」

 言いかけたアルヴィスの指先が首元のファスナー、の、1番上の引き手に掛かる。
 え。
 ゾクッとした。距離が近いからじゃない。だって、

「なぜ最近になって急に閉めるように、」

 アルヴィスの手が、普通にチャックを下げる。下げようとする。
 ジリリ、下げられたその隙間から、黒い紋様の刻まれた肌が見えた瞬間、


「――ッ!!」


 俺は、勢いよくアルヴィスの手を振り払っていた。




「……ハ」
「……あ」

 アルヴィスが、目を見開き俺を見つめる。その片手は、俺のファスナーに指を掛けた時のまま、中途半端な恰好で空を掴んでいた。
 一方俺はといえば、

 真っ白だった。

 やばい、やらかした。やって、しまった。
 振り払った俺とアルヴィス、その間には微妙な空間が出来ている。
 俺はその隙間をどうすることもできないまま、アルヴィスの目だけを見つめていた。

 やばい。どうしよ。思いっきり振り払ってしまった。
 反射だった。
 この、首元までタトゥに侵された、こんな俺の肌をアルヴィスの目に晒したくなくて、だから。とっさに。

 脳内では言葉がぐるぐる回る。だけども少しも声にならない。
 青い瞳が、目一杯開かれたその瞳孔が、俺を映している。妙に、責められている気がした。
 違う、違うんだ。アル、俺は、ただ――。

「シー?アルヴィス?」

 はっとする。
 同時に振り返った俺とアルヴィスの先、ギンタが不思議そうな顔をしてこちらに首を回していた。

「おっさん1番に出るって。2人ともそれでいいか、って聞いてるぞ」
「……え?あ」

 口を開きながら、ちらりとアルヴィスに視線を送る。
 何も考えていなかった。ただ反射で、アルヴィスを横目で見やっただけだ。
 のに、あり得ないほどばっちり目が合って、青色の瞳と視線が絡んで、


「……あ、もちろんいーよ。てかおっさん気合い入りすぎじゃね?歳考えてる?頼むから年齢考えて行動して欲しいんだけど」
「うっせーぞシー!!おめー先に潰されてーのか!」


 俺は、ふいっと視線を逸らしていた。
 背後――俺を見るアルヴィスの視線が突き刺さるのを、嫌と言うほど感じながら。


 初めて、だった。
 多分、俺がアルヴィスと出逢って以来初めて――明確に、俺の方から拒絶したのも、視線を外したのも。



 そして、俺はこの6thバトルで、それを死ぬほど後悔することになる。


- ナノ -