夢の世界に溺れる | ナノ
目覚め
「……それならまず、オレを殺せ」


 アルヴィスが、毅然と言い放つ。
 対するシーは、うねる魔力をまとう剣を、ゆっくりと振り上げた。

「アルヴィス!」「シーちゃん!!」

 届くいくつかの声に、しかしアルヴィスは見向きもしない。
 それは、目前で剣を振り上げた少年も同じだった。

「……シー、何度でも言ってやる」
「……。」
「オレは、お前を、」

 刃が、魔力が、空を切る。
 静止する砂漠を、大気を、鋭く切り裂く。


「お前の全てを、信じている」


 次の瞬間、刃は振り下ろされた。










「……は、ははっ……」
「……。」
「は……バッカじゃねえの、お前」
「……シー」
「っんで……なんで、……止めに来る、かなあ」
「……よろしくと言ったのは、お前だ」
「ああ……そうだっけ」

 そうだった、かも。
 ぽつり、呟いたシーの姿が、膝から崩れ落ちる。

「!シー!!」
「……ほんと、嫌」

 受け止めたアルヴィスの肩口、顔をうずめたシーが呻く。
 その両手から滑り落ちた剣が、砂地に柔らかく突き刺さった。
 アルヴィスの足元、そのすぐ真横に。

「……皆々、嫌いだ」
「シー?」

 完全に脱力したシーの体が、右半身へ一気にのしかかる。
 その様子がどこか、先ほどまでとは違う意味でおかしいことに気が付き、アルヴィスは眉をひそめた。

「シー?……どうした?」
「こんな……アルにまで刃を向けるような俺、ほっといてくれれば良かったのに」

 一度、二度瞬きをし、アルヴィスは目を落とす。
 ぶらり、力なく空の両手をさまよわせ、顔を肩に埋めるシーの声は、微かにノイズがかっていた。

「……言っただろう、信じていると」
「……はは、ほんと、馬鹿」
「お前に言われたくはない」

 ムッと眉を寄せたアルヴィスに、顔を上げないままシーは笑った。


「……アル」
「なんだ」
「……ありがとう」


 肩に埋まった頭が、ほんの僅かに震えている。
 アルヴィスは目を空へ向け、「……ああ」と呟きその頭にそっと手を置いた。



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