夢の世界に溺れる | ナノ
最後の
 悔しそうな顔するジャックに、良い笑みを浮かべて声を掛けるアルヴィス。
 アルヴィスの言う通り、なかなか善戦だったと言えるだろう。なんせ、あの危機一髪な状況をドローまで持っていったんだし。
 俺とナナシが顔見合わせて親指を立てるその先、ギンタがすり抜け前へ向かう。

「……なんといっても次に出るのは、メルの大将だからな」

 うん、期待してるよ。ギンタ。


△▼




 結論から言うなら、闘いの7割が観戦不可能だった。

「……たいした信念だよ。どうせなら本当にファントムを倒してみせな!」
 ニッと歯を見せるギンタ。ずいっと突き出されるV字の左手。

 うん、何が何だか、後半は真っ黒なドームが邪魔してさっぱりだったが、それなりに良い展開だったみたいだ。
 ギンタが勝ったなら俺としては満足も満足、なかなか傷が深そうだったが、あれならアリスで治療できるだろう。良かった良かった。

「アルヴィスの驚き顔も見れたしなー?」
「うるさいなぜお前はああも平気なんだシー」

 耳元、わざと嫌味っぽく言ってやった俺に、振り向きざまアルヴィスがキッと睨んでくる。
 指摘したのはギンタ戦の前半、相手方の胴体が真っ二つになった瞬間の話のことだ。なんでもディメンションアームの効果だったみたいだけど。

「いや、だって俺も幻覚でならああいうことするし。驚かせてふいを突くのが1番てっとり早いしさぁ」

 だから最初幻覚だと思ったんだよ、と言い笑う俺に、アルヴィスがいらっとした表情を見せる。あは、ごめんねえ。

「……お前は本当に腹が立つ」
「あはは、さんきゅ」
「……なぜそこで礼を言う」

 呆れと苛立ちが半々って感じの青い瞳へ、俺はひらりと手を振った。

「ま、次は俺だしさ。見ててよアルヴィス」

 そう言い残し、俺は金髪少女の待つフィールドへと大きく一歩進み出る。
 そのまま振り返りもせずに、砂漠の真ん中へ足を進め、適当なところで立ち止まった。


「……やあ、ご指名ありがとー」
「ええ。どうぞよろしく」


 ゆるり。
 ツインテールを揺らし、少女がどこか妖しく微笑む。
 俺も精々愛想よくにっこりしてみせて、それからポズンのコールを待った。


△▼




「……シー、」
 呼びかけ、思わず唾を呑み込む。
 砂漠の中ほど、佇む背中はひどく小さく、遠い。
 手を伸ばす。届くわけもないのに、なぜかそうせずにはいられなかった。

 胸騒ぎがする。

 伸ばした指先をギュッと握りしめ、アルヴィスは不安の目を向けた。
 遠く立ち尽くす、少年の姿を。


「シー……?」


 ――この闘いに、彼は出てはいけない。

 何の根拠も証拠もない。なのに、不意にそう思った。
 唇を引き結ぶ。ごくん、と唾を嚥下する。

 砂風の吹きすさぶ砂漠フィールドに、アルヴィスは胸の内を引っかかれるような、そんな嫌な予感をただ覚えていた。


- ナノ -