ちょっとの涙とお別れと
人間、驚きすぎると何もできない生き物らしい。
「……は?」
「お主を、ここから解放すると言っているのじゃ。シティレイアよ」
危うくバカの手本のように、おうむ返しをするとこだった。いやだって――は?解放?
それなりに頭がパニック状態、な俺はとっさに横を見た。未だに袖を掴むスノウ姫の横、いつの間にやらすぐ側にいたアルヴィスが、俺の顔を見、表情を崩す。
どういうことだよ、いったい何が起きてんだ。あのアルヴィスが吹き出しそうな顔になってんだぞ、もっかい言うけどあのアルヴィスが。
「……何笑ってんだよアルヴィス」
「いや、お前のそんなに驚いたという顔を見たのは……初めてだと思ってな」
いやいや、だって。は?
もう何回目かもわからない、頭の悪さの極地みたいな「は」の一文字だけが、脳の中を延々と巡る。
なんだ、誰か俺にもっとわかりやすく状況を教えてくれ。頼むから。
「シー!!」
突如絶叫をかましたギンタが、おもむろに俺に飛びついてくる。左にナナシ右にスノウ姫、そんで真横にアルヴィスという、わりかし危険な状態を完璧に無視した抱擁に、俺は危うくひっくり返るとこだった。
「ちょっおまギンタ!」
「良かったじゃねえか!! もっと喜べよ!!」
「いやいや待て待て何が何だか」
「シー! しょうがないから今日はこのドロシーちゃんも特別に抱きつきアタックかましたげるわ!!」
「いや要らねぇしげほっ」
「ドロシーちゃん羨ましいのお。自分もシーちゃんにやったげたいわ」
「……やはり、今度きっちり話をつける必要がありそうだなナナシ」
「アルちゃんが怖い」
「おめーら浮かれてんじゃねえぞ。そこの何にもわかってねえガキに、もっとちゃんと教えてやれ」
周りでこれでもかと騒ぎ立てる仲間に、おっさんからのとどめの一発。
いやあんたに言われたかないよ。本当にそりゃわかってないけど。うん、わりと。
俺からやっと離れてくれたギンタにドロシー、それからその後ろでにかっとナナシが歯を見せ笑い、その横でスノウ姫が嬉しそうに笑顔を見せる。
ボヨンボヨンと跳ねているバッボ、そんでもってなぜか偉そうに腕組みしてこっちを眺めるおっさんに、――俺の瞳を、真っ直ぐに見つめて微笑むアルヴィスの顔。
「……シー」
どっちかっていうと、俺は感情的な方じゃない。いや戦闘においてはちょっと別物だけど、少なくともそんな涙脆い、ってわけじゃない。
「……良い仲間に、出逢えたのじゃな」
それでもその時、俺が不覚にも泣いてしまったのは、ちょっと仕方ないことだとは思うんだ。