夢の世界に溺れる | ナノ
テスト終了
「……ええっと、どーもー」
 にっこり笑って無駄にくるりと回ってみせれば、相変わらず渋い顔立ちのおっさんが目をまんまるく見開いた。やりぃ。

「……シティレイア!」
「あっははあ、本名で呼ばれるとか久しぶりだなぁ」
「おまっ、お前、今までどこに……!」
「メルヘヴン中飛び回ってましたあ」

 で、ただ今現在。

「テスト、受かっちゃったんでー……ウォーゲーム参加者になりました、って感じ?」
「なっ……お前は、ゲホゴホッ」
「無茶しちゃダメだってー、あのおっかないチェスにずたぼろにされたんだろ?はいホーリー……」
「癒しの天使!」

 あっ、俺のセリフ遮られた。

 見れば、ガイラの側に座り込みアームを掲げる可愛らしい少女。
 ……まさか、ガイラのおっさんの子供、ってことはないだろう。うん、さすがに。
 ……というか、なんか見覚えあるような……。

「少ない! 少ないですねえ! 前回は30人ほどいましたか? これではファントムも楽しめないでしょうなあ!」
「楽しませるどころかビビらせてやるぜ! 早くウォーゲーム始めようじゃんか!!」
「少年、それ俺もさんせー」
「なあっ?!」

 怪物(もどき)みたいな姿をしたチェスに噛み付く金髪の少年。どっちもよく知らないが、少年の方はおそらくテストの生き残りだろう。ガシッと肩に腕を回して頷けば、相手はぎょっとした顔で横を見た。
 つまり、すぐ側にある俺の顔を。

「……なっ、あんた、誰だ?!」
「通りすがりのウォーゲーム参加者でーす」
「あっ、あなたは……!」

 いい感じで答えた俺の言葉を遮り、なにやら慌てふためきだすチェス。
 えっ何?ていうかさっきまでとテンション違くない?なんで俺、「あなた」扱いなわけ。

「シティレイア、様……?!」
「えっこわッ、なんで様付け」

 ていうか、お前誰だよ。

「なんで俺のこと知ってんの」
「ファントム様、の、」
「あっそれ以上は言わなくていいや」

 予想がついた。ヤメテ下さい。

「……シー」
 後ろからすっごい低い声が聞こえた。うわやべえ。
 てかなんであいつあんな怒ってんの、アルヴィス。
「……、とにかく、」
 ゴホン、と咳払いをひとつ。怪物(もどき)のチェスが、今更取り繕うように一言告げた。

「今日1日だけは、命ある幸運をありがたく思いお休みください……」

 いいのかな。その前の流れのせいで、わりと迫力と威厳が失われてましたけど。


 あ、あいつの名前聞きそびれたわ。つら。 


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