夢の世界に溺れる | ナノ
くだらないひとめぼれの話
 言うなれば、それは。

 ひとめぼれ、だった。




「……おまえ、は」
「よーアルヴィス」
「何しに来たんだ」
「つれないなぁー、久々の逢瀬なのに」
「……お前に会えても嬉しくない」
「またまたー、素直じゃないんだから」
「13トーテムロッド」
「はいストップー」
「そのふざけた喋り方をやめないか」
「いいじゃん。あ、あと俺、ウォーゲーム参加するから」
「……は?」
「ウォーゲーム、第二次世界大戦、さ・ん・か」
「……言葉は聞こえている。だが理解しがたい」
「アルヴィスにしちゃあ珍しーね。もっかい言おうか? ウォーゲーム、参加しまーす、俺が」
「……なぜ」
「えっ、だってアルヴィス出るだろ?」
「勿論」
「だったら俺も出るー」
「……意味がわからない」
「いーじゃん、俺は興味の赴くままにいくだけだよ」
「……お前、わかってるのか」

 俺を見据える、青い瞳。
 あいかわらず、綺麗な色だ。まっすぐで、美しい。

「ウォーゲームに参加するということは……ファントムに会うということだ」
「そらそーだろうね。あいつ復活したんだろ、まじえげつないよな」
「そうじゃない!」

 ガン、と13トーテムロッドが地面に突き刺さる。
 突如長く伸びたそれに、しかし伸ばした当の本人はかまいもせず、ぎらつく目で俺をにらんだ。

「ファントムのお気に入りだったお前は……次こそ、何をされるかわからない! 理解しているだろう?!」
「ゾンビタトゥ入れといて、これ以上何かするもあるか?」
「そんなのわからないだろう!」
 いらただしげに、アルヴィスが右手でロッドの頭をトントンと叩く。
「お前に危機感は無いのか?!」
「やだなー、心配してくれてんの? アルヴィス」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかないよー、俺大まじめ」

 あーあ、別に喧嘩したいわけじゃなかったんだけどな。
 くるり。俺はアルヴィスに背を向け、左手を軽く振る。

「またねー、アルヴィス。レギンレイヴで会お?」
「シー!!」

 背後で怒声が響いたが、俺は振り向かなかった。
 ああ、そういえば初めてだったかもしれないな。再会してから、俺の名前をちゃんと呼んでくれたのは。

「……やり切れねー」


 ひとめぼれ、だったんだ。
 6年前、出会った瞬間から。多分。

△▼


「……シー……」
 いらただしげに唇を噛みしめ、蒼眼の少年は名前を呟く。
 地面に突き刺したままだったロッドを引き抜けば、反動で軽くよろめいた。
 そんな自分の所作ひとつにも、腹立だしさが募る。

「6年前を、忘れたのか」

 狂気、白髪、笑む赤目、向けられるタトゥ。
 そして、諦めの滲む瞳。

「……次こそは」

 息を吐き、アルヴィスはぐっとロッドを握る。
 まずは、アームへ感情任せに魔力を注ぐことをやめなければ。

「シー……」


 言うなれば、それは。
 ひとめぼれ、だったんだ。
 第一次世界大戦のクロスガードの陣営で出会った、あの瞬間から。


 あれから、6年。
 凄惨な世界大戦は、今、再び始まろうとしている。


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