たった1人の修行なら
こんだけ大人数の修行、ってさ。
ふつー、仲間同士戦わせる、とかじゃね。
「……なんで俺自身……」
『今回お前達の相手は自分自身! 体をいじめぬいて魔力を高めよ!』
「ムダにテンション高いのいいけどさあ……」
どうやらガイラはすっかり元気になったらしい。
ヨカッタヨカッタ。
で?
と、俺はジト目で目の前の黒い影を見る。
俺と同じ身長、同じ髪型、同じ体型。
真っ黒だから顔はわからないが、それで良かったと心の底から思う。目の前に俺の顔があるとか、たぶん全力で吐くから。拒絶反応出るから、マジで。
『魔力が高まればシャドーマンも魔力を高めて応戦するぞ。己の敵は己、という修行じゃ!』
「……いやこれ以上魔力上げてどーすんの俺……」
自慢じゃないが、それなりに戦闘能力は高いと自負している。
別に修行なんかしなくたってナイトクラスとやりあえるつもりだけど、全員修練の門=これアルヴィスと闘えるフラグ?と思って、ワクワク扉に飛び込んだのだが。
目の前にいるのは、ダガーをかまえた自分自身。
「……あー、もう」
どうしようも、ないな。
くっくっ、と腹の底から込み上げてくる笑いに身を委ねる。
俺自身、てことはさ、つまり、俺とおんなじくらい強いってことだろ?
「……サイコーじゃん」
ここにいるのは俺1人だけ。
つまり何が起ころうとも、誰も俺の姿を見る者はいないってわけだ。
「全力でいける、ってわけ?」
何が起ころうとも、何をしようとも。
例え俺がここでどうなろうとも、誰にもそんなのわかりゃしない。
「いーね。……来いよ」
すら、とかまえた刃先を揺らす。
次の瞬間、真っ黒な俺が飛び込んできた。