君は泡に死にゆくの | ナノ

夏はやって来た

「…雲雀さん」


ぽつり、呼ばれた名前に、
喪服の雲雀は無言でふり返る。
気配は感じられなかった。
またこの小動物にやられたか、と思うと面白くない。


「…まだ、残られるんですか?」
「悪いかい」
「いえ、でも…」


言いよどむ、その目元には黒い隈ができていた。
ユイの死因は今日の葬式では病気にされていたけど、
多分勘のいいこの子には、なにかがわかってしまったんだろう。
良いのか悪いのか考え物だね、と乾いた目で見つめる雲雀に、似合わない喪服に身を包んだ綱吉は今にも泣き出しそうに顔をゆがめた。


「…ユイのこと、もっと早く気付いてあげられてたら、」
「綱吉」


さえぎる。
そんな言葉、
あの子は望んでいないだろうから。


「何を言ってもユイはかえらない」


そう言って、雲雀はくるりと振り返る。
真っ白な墓標に刻まれた、
彼の名前の細い文字。
背後で息を呑む音が聞こえたが、雲雀はかまわずポケットに手を入れた。


「…コレ、何かわかるかい?」
「……?」


手をひらひらと振れば、綱吉は半泣き顏のまま首をかしげた。


「……にっき…?」
「そう」


ぱらり、
開いたページから、
落ちる、
黄色いそれ。


「!雲雀さん、」
「いいんだ」


ふわり、
風は簡単に花をさらい、
空の向こう、青い青いそのどこか遠くまで、
悪戯に運んでいった。


「…こんな物で、僕は慰められたりしないよ、ユイ」





夏とともに消えていった、
泡みたいな彼の姿。



「……待ってなよ」




幾度もの夏を過ごして、
君のいない日々を重ねて、
そしてたくさんの出来事を胸に刻んで、
君のもとへ行くんだ。


僕がした経験の全てを話したら、
きっと君は悔しがる。
ちょっとすねたように顔をそむけるから、
その唇にキスをして、それからまたたくさんたくさん話すんだ。


ねえ、それくらいは許されるでしょう?





「…夏だね」
「……え?」



空の青は吸い込まれそうなほど深く、
白い雲はどこまでも鮮やかで、
消えた黄色はどこにも見えなくて、



目がいたいな。




「…夏が、来たんだ」



君のいない、
君の消えた、


夏が。







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