番外・Good-bye,my feeling.
「来月結婚することに、」「聞いた」
せっかくだからといの1番に報告しようと思ったら、あっさりそっけなく遮られた。え、と肘掛け椅子にどっかり座り込む相手を見下ろし、首をかしげる。
「俺、口外するの初めてなんだけど」
「あのバカ馬が教えてくれたよ」
「はあ?ったく、ディーノの奴、恭弥には俺が言うって言っといたのに……」
「牽制じゃない?あの人、僕が1番危ないんだって言ってたし」
「危ない?」
恭弥がおもむろに書類を放り出す。バサッという音ともに、白い紙が空を舞った。
見下ろす夜無月の周囲を、まるで隠すかのように紙が散る。上下左右、白い壁に取り囲まれているかのような感覚がした。目を細める。
「そ。くれぐれも手は出すな、ってね」
「!」
腕を引っ張られ、よろめく。
油断していた。まさか、紙を囮に使ってくるとは、
「――まあ、」
バサリ。最後の一枚が、足元に落ちる。
「僕がそんな言葉、聞くわけないんだけど」
唇を離した雲雀が、悠々と笑った。
「……っとに、恭弥、お前って奴は……」
「言ったでしょ?諦める気は無いってね」
肘掛け椅子に座ったまま、夜無月の手を引きキスした雲雀は口角を上げる。
「見つかったら迷惑被るのは俺なんだけど」
「なら僕のところにおいでよ。あの人なんかよりもよっぽどいい目を見せてあげる」
珍しく饒舌な雲雀の言葉に、夜無月はぷはっと吹き出した。
「ははっ!いい目、って恭弥が言うとマジ洒落になんないね。とんでもない事になりそうだ」
「冗談のつもりはないからね」
「おやおや」
目の端、笑いで滲んだ涙を指ですくって、夜無月は片手を振った。
「じゃあ俺はそろそろこのへんで」
「もう行くのかい?」
「ん、ツナへの報告がまだだからね」
「ボスよりも僕が先か。優先事項が間違ってないかい」
「喜べよ。恭弥に最初に報告したかったんだ」
ふうん。肘をついた雲雀の前で、つれねぇなと笑った夜無月は扉を開けた。
「……最初に、ねぇ」
散らばる書類を拾う事も無く、雲雀は顎を手の甲に乗せる。
頬杖をついた格好で、微かに鼻を鳴らした。
「……嬉しそうな顔して」
気に食わないね。小さく呟いて、雲雀は懐のトンファーをカシャンと鳴らす。
そうだ、今度あの男を咬み殺そう。デレデレした顔で報告をしてきた金髪男を思い浮かべて、雲雀の唇が凶悪に歪んだ。
大体元から気に食わなかった。師匠だのなんだのと、昔から的外れな事ばかり口にして。
あげくの果てに夜無月の事をかっさらっていったのだ、これは徹底的に咬み殺されるべきだろう。嫌だが六道あたりと手を組んでもいいかもしれない。
両手に握ったトンファーが、射し込む日光を受けて鈍色に光る。
不意に、頭をよぎった。去り際、右手を振った夜無月の指先。
眩しい銀色が煌めいていた。きらきらと、まばゆく。
ふうっと息を吐いた。
全く。呟いて、雲雀は目を閉じる。
「……お幸せに」
祝福しよう。
それが、君が幸せになる未来なら。どうであれ。
「……ま、諦める気はないけどね」
離れた部屋で、ディーノが謎の悪寒とくしゃみに苛まれるのは、また別の話。