堕天使と契約を。 | ナノ
「永遠を誓わなきゃ」
そう言って笑い、青い目の少年は胸の前で指を組んだ。
「…永遠?」
「そう、永遠」
夕焼け、十字架、並ぶ長イス、教会。
なんでこの荒れた教会に2人でいることになったのかは、もう忘れた。
ただ、夕日に照らされ赤く染まる、目の前の少年の動きを目で追うだけで。
『…主よ、どうぞ憐れみをお与えください』
「……は?」
「ほら、繰り返して」
目の前、埃にまみれた教壇の上に座りながら、相手は片頬を上げて笑う。
「…なんつったっけ」
『主よ、どうぞ憐れみをお与えください』
「……主よ、」
どうぞ憐れみを。
言い掛けて、ふと視線を上げる。
教壇に腰掛ける彼の姿は、よくわからない獄寺にも、おそらく神への冒涜、とかいう行為になるんじゃないか、と思わせた。
つまり、遊びなのか何なのか、それにしてもこんな言葉を言い祈りを捧げるにはあまりに、
背徳、
そんな2文字が頭に浮かんだ。
「…やめた」
「なんで」
閉じていた瞼を開き、くすりと笑う、転校生。

曇りひび割れたステンドグラスから射し込む夕日に照らされて、鈍い赤に全身を染める、その姿はまた随分と綺麗だった。
思わず目を細めた獄寺の脳裏に、こいつ、案外神の使者だったりして、と血迷った考えをよぎらせる程度には。

『….主よ、どうぞ私の罪を、』
静かな呟きが唐突に途切れる。
「どうしたんだよ」
「…やめた」
くすり、
片頬だけでまた笑って。
いとも簡単に教壇から飛び降りて、ユウはこちらに手を伸ばした。
「ありがと、獄寺。帰ろう」


…思い出した。
そうだ、10代目の家から帰る途中で、ふと道を変えたらこの教会の前に出て、
へえ、並盛にもこんなトコがあったのか、と妙に感心した自分の前で、元は扉があったのであろう空間からひょいとこいつが姿を現して、
あ、こいつ確か転校生の、と無意識に眉をひそめた俺を驚き顔で見た相手は、
なあちょっと来ないか、と手招きしたのだ。

…思い出した。


「…なあ、てめぇは」
「んー?」
なぜか腕をひかれながら、朽ちた長イスの間を延々と歩く。
「カミサマって、信じてるのか」
ほんのわずかに、
歩く相手の動きが鈍った。
「信じてない」
足を止め、振り返った少年は笑みを浮かべていた。
「….へえ」
「獄寺は?」
まるで宿題のことでも聞くかのように、相手は平然と問うてくる。
「…さあ」
信じてるか信じていないか、
と言われたら微妙なところだ。
だって俺が本当に心から信じているのは、10代目だけだから。
「じゃあさ、堕天使っていると思う?」
大した反応もせず、ユウは当然のように質問を重ねた。
「……は?」
「堕天使だよ、堕天使」
悪戯っ子みたいに楽しげに笑い、
青い瞳を細めて彼は言う。

「…いるだろ、きっと」
祟りや呪いや幽霊や神がいるのならば、
多分、きっと。
「…いるんだとしたら、てめぇみたいなナリだったりしてな」
ふとこぼれ落ちた言葉に、自分でもびっくりした。
ハッとして顔を上げると、大きく目を見開くユウの姿。


夕日に染まり教壇に腰掛け、
指を組み片頬を緩ませて、
しかし真摯に祈りを捧げる彼の姿は、
神秘的でなお背徳的で。


「…なんでもねーよ」
大きく1歩前に踏み出し、よろめいたユウの腕を思いきり引っ張る。
「っ、何するんだよ、」
「おら、行くぞ」
いつまでもこんな辛気くさいとこにいられっか。
そう言って繋いだままの手を引っ張った。
「……ふふ、それもそうだな」
背後で、かすかに笑う気配。
また片頬だけ上げて、彼は笑っているのだろうか。
その姿は、赤く染まっているのだろうか。



主よ、どうか。
堕ちた私にも、導きの手を、どうか。


小さく聞こえたその言葉は、
はたして自分の聞き間違えだったのか、それとも。

背徳の祈り


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