断罪なんて要らない | ナノ
そう、断罪なんて要らない


屋上から見える世界は美しく遠かった。
やけに全部が白く見えた。


「…雲雀」
新しくなったフェンスに顔を押し付け振り返らずにそう言うと、背後から盛大なため息が聞こえた。
「…気配は消したつもりだったんだけどね」
「下手くそなんだよ」
くるり、振り返って笑うと、
むっ、とつり上がる黒い瞳。
「…何か言ったかい、命の恩人に向かって」
「いーえ、なんにもー」
仕返し、と口の中で呟く。
さらさらと、涼しい風が屋上を渡っていった。
「雲雀、」
「何」


「俺、お前のこと好きだ」


黒い瞳は揺らぎもしなかった。
「嘘吐き」
そう言い、笑みを含んだだけで。
「なにそれ、跳ね馬の真似?」
「…あんなバカみてえに明るいの真似できる訳ねーだろ」
「それもそうだね」
やっぱり笑みを含んだまま、切れ長の黒目が細まる。
「…まずは、第一歩からだろうね」
「…は、何が?」
「名前」
「…名前がどーかしたのか」
「下の名前で呼びなよ」

ぱちぱち、
目をしばたかせたルキアに、
雲雀はやっぱり楽しそうにそう言った。

「ちゃんと名前で、僕を呼ぶのさ」
「…………恭弥?」
「そう」
よく出来ました、
とまるで幼児に言うかのように頭を撫でられる。
同じ目線に、黒い瞳があった。
「…恭弥」
「何」
「……なんでも」
目の前の黒い肩に抱き寄せられた。
温かい、
生きている人間の温度に包まれる。
「君は別に普通だよ」
雲雀の声はくぐもって耳に届いた。
「ちょっと死にたがりの、愛情表現が下手くそな、ね」
「…それ普通って呼ぶのか」
「普通さ」
ぐい、と顎に手をかけられる。
黒く煌めく瞳は、
フェンス越しに見た世界より鮮やかだった。
「……俺、」
「ルキア」
唇が離れた瞬間、雲雀が囁いた。
「君が、好きだ」


寂しがりやで不器用な、強くて弱い愛されたがりの君の事。


「……うん」
嘘なんかじゃないよ、恭弥。
涙が止まらないこの感情は、
何一つ偽りなんてないから。





|9/10|bkm / BACK

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -