断罪なんて要らない | ナノ
歪みの消えた、初まりの片隅に


「キョーヤッ、ルキアは、」
「集中治療室。騒ぐなら出て行って」
辛辣ともとれる雲雀の態度に、病院の廊下を駆け抜けてきたディーノは大きく肩を震わせた。
「…飛び降りたって、」
「違う」
言い掛けたディーノの言葉を、雲雀が即効で遮った。
「事故だった。耐久性がなくなっていたフェンスが外れて、それに巻き込まれた」
この僕が並中の事に気が付かなかったなんてうかつだったよ、と淡々と述べる雲雀に、半ば呆然と聞いていたディーノは我に帰った。
「、でもっ、」
「僕が見ていた」
だから事故だ。
だが重ねた雲雀の言葉は、別の意味でディーノを動揺させた。
「…見てたって、お前、目の前にいたのか?!」
「そうだよ」
「ならなんでっ、」
ディーノは雲雀の肩を掴んだ。
「止められただろっ、お前なら!!」
「それを言うんなら、受け身を取れたはずの彼に言ってよ」
あの子の反射神経はあなただって知っているはずでしょう。
揺さぶられてもなお、冷然と雲雀は言葉を重ねた。
「、けどっ!」
「彼は落ちながら笑っていた」

だから。
雲雀は、そこで初めて視線を落とした。

「あれは事故だったけど、自殺だったのかもしれない」





両親は知らない。
親だったのかそれとも親戚だったのか、
でもただの一度も「お母さん」とは呼ばせてくれなかったその人は、
俺に何度も同じ行為をした。
首を絞めて、階段から突き落として、ナイフで切られて、水に顔を浸けられて、
でも、いつも死ぬ前に引き上げられた。
毎日だった。
あれはなんだったんだろう。
あれが愛すってことじゃないの。
ねえ、違うの?
違うのなら、


「ルキア」

誰かが俺を呼んでいる。

「君はさびしいんだ」

さびしい。
違う、だって。
それは普通、の考え方だから。

「違う、君だって普通だ」

普通?
ふつう?
誰が?
俺が?

「怖いんなら、僕が一緒に教えてあげるよ」



君が本当に望んでいる、
『普通』を。



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