貴方と私の風紀な日々 | ナノ
咬み殺す貴方と叩き潰す私

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「2年A組沢田綱吉、10秒の遅刻により叩き潰します」
「10秒くらい許してよ?!」


朝から目の前で沢田綱吉が叫んでいますが無視です無視、だって10秒だろうと10分だろうと0.1秒だろうと遅刻は遅刻、風紀委員としては見逃せません。
それも副風紀委員長とあっては。

「大丈夫ですよ、私は委員長と違って1回目は優しいんです」
「ならそのハンマー下ろしてくれませんかっ?!」

私がチャキ、と愛用のハンマー(銀色合金製・重さ不明)を構えると、彼は顔を青くしていっそう声を張り上げます。
やめてくださいよ、朝から頭に響くじゃないですか。

「なんで雲雀さんといい天原さんといい、風紀委員って武器持ってんの?!」
「失礼ですね、私をあんな暴君といっしょにしないでくださいよ」

暴君、つまり風紀委員長、イコール雲雀恭弥。並盛を愛し、風紀を取り締まるとんでもない男。
「群れるのは嫌い」とかわけのわからないことをほざき他人を「草食動物」と呼ぶ、あんな人といっしょにしないでください。
その人にいまだに勝てない自分が1番むかつくんですけどね。

「天原さん、雲雀さんのことお嫌いなんですか…?」
「嫌いじゃないですよ。苦手なだけで」
「…それ、嫌いなんじゃないですか」
「叩き潰せないから苦手なだけです」

咬み殺すだとか叩き潰すだとか、どうしてこう風紀委員というのは物騒なんだ、とブツブツ呟いている沢田綱吉を見下ろし、私は当初の目的を思い出しました。
手にしたハンマーを思いっきり振り下ろします。ぶんっ。

「なっ、何するんですかーっ?!!!」
「なんで避けてるんですか」
「避けますよ!そりゃハンマーが降ってきたら避けますとも!!」

無駄に反射神経の良い彼に、私ははぁとため息をつきました。

「いいじゃないですか、おとなしく叩き潰されてくださいよ」
「嫌です!!……あっ、そうだ!」
「…?」

なにやらぱっと顔を輝かせた沢田綱吉に、私はきょとんと首をかしげました。

「…母さんが作ったサンドイッチ、今度またあげるので、それで見逃してもらえません?!」

……サンドイッチ。
綱吉の母の、
手作りの。

ぴくり、
私の耳が動きました。

「…わかりました。今回は見逃してあげます」
「や、やった…」
「…その代わり、」

ぐい、と綱吉の襟を掴み引っ張る。
彼はぐえ、と潰れた声を出しましたが、知りません知ったこっちゃありません。

「……サンドイッチ、絶対ですよ?」

引き寄せた耳元に囁くと、なぜかパッと体が離された。

「…わ、わかった!わかりました!ので離れて…」

なぜか綱吉は顔を真っ赤にしていましたが、なぜでしょう。
そんなに強く襟を掴んだつもりはなかったのですが。
私がますますきょとん、としたその時ー。


「何してるの君達」


……あ、と。
隣で綱吉が頬をひきつらせるのが見えました。




「でた暴君」
「天原さんー?!!」

何言っちゃってるのー?!と隣で綱吉が叫びました。相変わらずすごい声量ですね、一体どこから声出してるんです?

「…唯斗、小動物、何してるの」
「別になんでもありません委員長、応接室に戻りましょう」
「…なに、僕に隠す訳?」

ざわり、
と委員長の周囲に殺気が漂いました。
あら、と私は呟きます。
何かわかりませんが、委員長の気に障ったようです。
え、私何かしました?

「俺の遅刻、見逃そうとしてたからじゃないですか…?!」

綱吉が半泣き顔で袖を引っ張ってきました。そうしていると可愛いですねえ、弟みたいです。いらないですが。

「…小動物と顔寄せてたでしょ」
「………え?」

小動物=綱吉の構図はまあ今は置いておくとして、ちょっと何言ってるんですかね、この暴君。
その時ふと思い当たりました、先ほど綱吉の襟元を思いっきり引っ張った時のことを。

「…あ、あー」
「…へぇ、やっぱりそうなんだ」

ぶわり。
殺気が広がる気配。

「ちょっ、天原さん、めちゃくちゃ雲雀さん怖いんですけどっ…?!」
「大丈夫ですよ、この暴君にはよくあることです」
「本人目の前にして暴君とかフツーに言わないで…!」

相変わらず涙目で袖を引っ張る綱吉と会話をしていると、


「…離れろ、小動物」


ブンッ、
とさっき私が振り下ろしたのとは比べものにならないほどの威力が飛んできました。おそるべしトンファー。

「ひっ、ひぃいいい?!」
「委員長落ち着いてください。ただでさえ暴君が大暴君になられては困ります」
「天原さん、落ち着き払った声で何言ってんのー?!」

次々に繰り出されるトンファーの嵐から身を守りながら、
ああ、今日も委員長は元気だなあと私はしみじみ実感しました。




副風紀委員長、天原唯斗。
私は不本意ながら、
暴君・雲雀恭弥のもとで今日も働いています。


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