副委員長、絶体絶命(上)▼ ▼ ▼
それは、いつも通りのはずでした。
「おい姉ちゃん」
私は誰かの姉になった覚えなどありません。
当然無視した、のですが。
「あんただよ姉ちゃん。聞こえてんだろ?」
ぐい、と肩をつかまれた、
と同時に、私は振り向きざまハンマーを思いっ切りなぎました。
ぼぐっ。
鈍い音がして、相手の男が吹っ飛びます。
私は顔をしかめ、ハンマーを強く握り直しました。
この感触、嫌いです。いつまで経っても慣れません。…慣れる方が異常でしょうが。
慣れたら最後、多分あの大暴君のように舌なめずりして得物を振るうようになるのでしょう。それは嫌ですね。
「ってっめえ!」
「わぉ」
余計な考え事をしていると、後ろから殴りかかられました。なんて卑怯な。
しかもありがちな芸のない言葉です、どうせなら「すまねえちょっと殴るぜ!」とか言ってくれたらいいのに。そうしたらこっちも「ああちょっと殴られてみようかな」とかなるかもしれないじゃないですか。
…なりませんね。絶対ないでしょう。
「ぐわっ」
軽く避けて足を出せば、相手は簡単に転んでくれました。ドンマイです、その綺麗な背中に踏み跡付けさせてもらいますね。
「なっ、なんなんだよ!こんな強ぇなんて聞いてねえぞ!!」
2人のいかにも頭の足りなそうな男達が倒れるのを見、残っていた1人が蒼白になり後ずさりました。
やめてくださいよ、私がいじめてるみたいじゃないですか。
「知らないで手出してきたんですか、残念ですね」
人がいないからって私に声をかけたのが間違いでした。
地に転がった男のポケットから滑り落ちる、煙草と学生証。
…やっぱりですね、妙に若いと思ってたんです。
「高校生の身分で喫煙とは、」
私はヒラヒラと手に持った煙草のケースを掲げ、
「叩き潰すには十分ですね」
次の瞬間、一気に男へ間合いを詰めました。
「弱いですね」
ぱんぱん、と手を払い、私はハンマーを縮めて収めました。
地面に転がる男は計3人。
金髪、銀髪、ラスト白髪。
惜しいですね、もうちょっとでメダル色が3つそろったんですが。
動かない1人の元に膝をつき、そろそろと顔をのぞき込みました。
…脳にダメージは負ってなさそうです。当分、ひどいたんこぶができるかもしれませんが。
「…ふう」
ほっと息を吐くと同時に、どっと疲労感がきました。今日はせっかくのお休みなのに、ついてないですね。私を疲れさせるのは、あの気まぐれ暴君1人で十分なのに。
「……委員長」
きっと、今日も応接室で仕事をしているんでしょう。
多分、気がどうかしていたんです。
委員長のことを思い出して呟くなんて、
そして、
「…っ?!、あうっ、」
背後から忍びよる気配に気づかず、
あまつさえ後頭部を殴られて気を失うだなんて。
「…今日、天原は」
「土曜日なので、家にいるかと」
「…この人手不足に…」
「す、すぐに連絡を」
「いい。僕がする」
え、と焦る草壁を横目に、雲雀は知らん顔で携帯を耳に当てた。
「……?」
「…で、出ませんか?」
「……」
無機質にコール音を響かせる携帯を見つめ、
雲雀は眉をひそめる。
「……唯斗?」
なぜだろう。
嫌な予感がした。