青葉若葉輝く五月。
爽やかな初夏の風が吹き抜ける昼過ぎ、道場には二人の子供の姿があった。
「何で真尋それしか持ってないの」
「惣次郎だって〜〜」
二人で顔を突き合わし、うーとうなる真尋と惣次郎。
「しょうがないよね、二人そろって縁日で使っちゃったんだし」
「あー何で俺、あん時りんご飴二つも食べたんだろ…」
「僕も射的しちゃったよ…」
二人がここまで頭を悩ましている問題とは――お金である。
二人には少ないながらも一応月々のお小遣いというものが存在するのだが、使う環境にいる訳ではないのであまり使わず、年何回かの縁日などそういう行事事で一気に使う……というのが常だった。
故に、そこでは比較的景気良く使え、それはそれで良かったのだが今日はそれが仇になってしまった。
「どうするのどうするの!今月はまだまだ貰えないよ!?」
「ていうか明日にでも買いにいっちゃうよね?」
何故二人がここまでお金に悩み、焦っているのか。
それは、今日の朝飯に遡る。
〜・〜・〜
「あれ、近藤さん髪紐変えたんですか?」
近藤はいつも白の髪紐を使っている。
それが今日はどうだろう、見た事のない紺色の紐を使っていた。
「ん、あぁこれか?実は今朝方泥水に落としてしまってなぁ…」
生憎買い置きの紐は無く、買いに行こうにも間の悪い日で、今日は近くの道場に出稽古に行く日なので町には行けない。
だから今日一日適当な紐を使うのだ、と近藤は言う。
「そうなんですか…」
「それは災難ですね…」
とあまり興味の無いように相槌をうつ二人だが、その心内はどうも同じ思いのようで。
『僕らで新しい紐を近藤さんに贈りたい』
そうして、二人財布を持ち寄り、その淋しさに途方に暮れていた冒頭に戻る。
〜・〜・〜
「で、どうする」
「今日中にお金を手に入れ、町に買いに行くしかないよね」
「その方法を聞いてるの!」
「う〜ん……」
短時間でお金が手に入る方法はあるのだろうか。
私たちは「内弟子」としてここにいるため、手伝いをしてお金を貰うなんてことは無い。
大人なら何かを売って稼ぐことが出来るが、何せ自分たちは子供……
「ん?大人?」
私の脳裏にある人がよぎる。
「真尋、何か思いついた?」
「かもしれない」
ケガの万能薬だとか言いながら、ただ苦いだけの薬を売り歩いているあの行商――
「土方さんだよ!!」
「土方さん?」
「うん、土方さんが言ってた!お金の無い時は日雇いの仕事探して稼ぐんだって。薬売るより稼げる時もあるみたい」
詳しい仕事内容は聞かなかったけれど、確かにこれを探せばお金が手に入る。
私は名案だ!と期待を込めて惣次郎を見る。
が。
「僕らみたいな子供を雇ってくれる仕事ってあるの?」
……再び問題はそこになる。
「は〜…剣術なら大人に負けないのに」
「まあね。…でも本当にどうしよう」
その後もうーんと頭を捻るが、どうしても良い案が思い浮かばず。
結局は先程の私の案に従い、とりあえず町に出ることにした。
「何でこういう時に土方さんはいないんだ!」
「ほんと、来なくて良いときは来るのに……」
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