町に出てきたはいいものの、その「仕事」とやらの探し方がさっぱり分からない。
仲介人みたいな人がいるの?それとも貼り紙とか?
とにかく二人でキョロキョロしながら歩いていると、いつもの漬物屋さんの前でおばさんに呼び止められた。
「惣次郎と真尋じゃないかい!またお使いかい?」
「今日は違うんですよ」
「ならどうしたんだい。この時間に町に来るのは珍しいじゃないか」
私達は事情を手短に話した。
おばさんは笑いながら、話を聞くなり突然、紙と硯を取り出す。
何やら手紙のようなものをしたため、私達に渡してきた。
「これを二つ先の角を曲がった米屋の主人に渡しな」
「え、でも俺たちこれから…」
「いいから!可愛いお得意さんへの贈物代わりさ」
そう言って、ぎゅっと私の手にそれを握らせ早く行きなさいと急かすおばさん。
私達はどうすることも出来ず、その言葉に従うこととなった。
〜・〜・〜
たどり着いた米屋は、中々立派な店構えをしていた。
こんな所に来たことの無い私は少なからず緊張したが、惣次郎は普通に入ってしまう。
私は慌ててそれに続いた。
「ごめんくださーい」
「おう、いらっしゃい!」
出てきたのはとても恰幅の良いおじさんで、私達を見るなり「お、坊主が二人でどうした?」と白い歯を見せてくるので、人柄も良いのかもしれない。
「漬物屋のおばさんからこれを預かってきたんです」
「ん?どれどれ……」
おじさんは私から手紙を受け取ると、それを食い入る様に見る。
内容を知らない私達は、少し居心地悪く感じながらおじさんが読み終わるのを待った。
「あい、分かった。んじゃあ坊主達!ちょっとついてこい!!」
読み終えるなり店の奥へと私達を案内するおじさん。
私達は訳も分からずただついていくしかない。
「ねぇこれどういうこと…」
「僕も分かんない。でもこんなことしてる場合じゃ…」
そんなことを話していると、ここだとかなり大きめの部屋に通された。
そこには部屋いっぱい積み上げられた米俵。
「ここは…」
「うちの商品置き場だな!んで、これだ」
そう言って私達に手渡された籠や網。
意味が分からないと首を傾げれば、おじさんも驚いたように言う。
「お前らがここに住み着いた鼠を捕まえてくれんだろ?」
「へ?鼠?」
全く話が噛み合ってない私達に、惣次郎が助け船を出す。
「僕達おばさんから何も聞かずただ手紙を持ってきたんです。その手紙には何と書いてあるんですか?」
するとおじさんは苦笑いしながら、答えてくれた。
「成る程な。全くあの人もしょうがねぇなぁ。坊主達は今日中に小遣いが欲しいんだって?」
「えぇまぁ…」
「それを自分たちで稼ごうとするのがえらいじゃねぇか。だからな、坊主達に仕事させてやれって手紙だ」
「本当ですか!?」
思いがけない内容に、驚きながらも嬉しさが込み上げてくる。
「あぁ。あの人は俺が倉に住み着いて何でもかんでもかじっちまう鼠に困ってる話を知ってたからな。だからお前ら、きっちり“給金”払うから頼んだぜ」
そういう事なら…、と漬物屋さんのおばさんに感謝の気持ちを抱きつつ、私達はやる気いっぱいに答えた。
「任して下さい!!」
〜・〜・〜
鼠は全部で三匹いると言う。
先程から音はするのだが、姿は見えない。
「こういうのを大捕物って言うのかねぇ…」
「そんな大袈裟なものじゃないでしょ」
「……使ってみたかっただけです〜」
着物をたすき掛けし、いつでも来い!な戦闘態勢なのだけれど、肝心の奴らは未だ姿を見せない。
なのにチョロチョロと動く音がするのは、何だか馬鹿にされている様でとても腹が立つ。
「こういう時は鼠の気持ちになって…」
「…真尋ってほんと、時々馬鹿だよね……」
「うっわー噛みたい。今すぐ心から噛んでやりたい」
そう私達が決して頭が良く聞こえない会話をしていると……
「ちゅう」
………。
「居たぁ!!!」
「真尋右!」
「こっちにも居たぁ!」
左右からいきなり現れた二匹の鼠。
私達も左右に分かれそれぞれ追い掛けるが…
「ちょ、待て!」
「すばしっこい…な!」
大人相手には素早く動ける私達だが、鼠相手ではいいように翻弄されてしまい、中々捕まえることが出来ない。
それでも何とか諦めずに追い掛けていると、一刻程で二匹は捕まった。
お互い追い掛けていた鼠がいつの間にか挟み撃ちの形で、それぞれ懐に飛び込んできた形でだが。
捕まえた二匹は籠の中に閉じ込めている。
「か…なり、疲…れた」
「中々…キツい…ね」
ぜえぜえと息を切らせながら、とりあえず座る。
思った以上にしんどい仕事だ。
それでも私達は、
「近藤さんの…髪紐まで…あと一匹…」
の思いだけで、頑張れる気がした。
〜・〜・〜
「終わった〜〜〜!!!」
あれから中々出てこない最後の一匹を辛抱強く待ち、先程の反省を活かして最初から挟み撃ちで捕獲を試みるといとも簡単に捕まえられた頃には、空は茜色に染まっていた。
私達は半日鼠を追い掛け回していたことになる。
「疲れた疲れた疲れたー」
「それは僕も一緒!ほら、早く行かないとお店閉まっちゃうよ」
おじさんは二人合わせて髪紐を買っても余るぐらいのお金を“給金”としてくれた。
私達はその足で、小物屋へと急いだ。
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