短編集 | ナノ

君に誓いの花束を

――今度は俺達と三連覇しないか。


そう真っ直ぐ私を見つめて告げた幼馴染を、私は一生忘れることは無い。
彼のおかげで、私はテニスを諦めずにいられてるんだから。








「おはよう」
「おはよー」


今日から立海大の高等部に進学した私と幼馴染の精市は、入学式を控えてざわつく新クラスの教室に入った。
…まあ、新クラスとは言えどもほとんどが中等部からの内部進学だから大して顔ぶれも変わらないんだけど。


「おはよう、真田早いね…って思ったけど当たり前か」
「ブン太が早いのは意外」
「んー…なんか早く起きちまったんだよなあ。てか俺吹雪と幸村くんとも同じクラスかよぃ…」
「泣きたいのは私もだよ」
「どういう意味かな、それ」


精市とクラスが一緒!?と驚きながら入った1−Bの教室には真田とブン太がいた。
真田もブン太も、中学からの付き合いで所謂【いつもの面子】というものである。
にしても…ブン太はともかくとして精市と真田が同じクラスか……。


「さよなら私の伸び伸び高校生活1年目…」
「さよなら俺の伸び伸び高校生活1年目…」


私とブン太はがっくりと肩を落として自分たちの運の無さを慰め合う。
真田と精市が揃った時点で色んなことが終わったと思う。
この二人を揃えるなら、どうしていっそのこと常識人の蓮二をここに入れて三強を揃えてくれなかったと先生を恨んだ。


「…あ、メールだ」


ブン太とこれからの1年を嘆いていると、携帯に一通のメールが届いた。
相手はこれまたいつもと変わらない奴。


「……仁王と柳生はC組らしいよ。仁王から随分浮かれたメールが来た」
「へえ、仁王と柳生か。さっき蓮二からジャッカルと一緒のA組だってメールきたけど」
「…固められたね、テニス部」
「あと一人はどこだろう?」


そう精市が首を傾げた時、その【最後の一人】の声が響いた。


「えー!?吹雪と同じクラス!?やったー!!!」
「ぐえっ」


彼女の声が聞こえたと同時に背中に衝撃が走り、くぐもった声が出る。
やったやったと背中で騒ぐ最後の一人は、今井明日香。
彼女は中学二年のときに大阪から転校してきた女の子で、私の親友でもある。


「…明日香もこのクラスなの?」
「そうやで!ってか、幸村君に真田とブン太もいるやん!めっちゃ嬉しい!」
「明日香まで一緒とか、うるさくなるな…」
「今井!入学早々うるさいぞ!」
「真田もうるさいから」


…どうやら本格的に静かな高校生活は送れそうにないらしい。
また今年もわいわいやっていくんだろうなあと、私は目の前の顔ぶれに苦笑いをこぼした。



〜・〜・〜



私は中等部時代、精市達と同様テニス部に所属していた。
幼稚園に入る前からの付き合いである精市と一緒に始めたテニス。
一瞬にしてテニスの楽しさに夢中になった私達は毎日をテニスに捧げ、小学校最後のジュニア大会では互いに優勝するまでになった。
そんな自他ともに認めるテニス馬鹿の私達がテニスの強豪、全国常連校の立海大を選ぶのは自然なことだった。


入学してすぐに入部届を出したテニス部で、後のレギュラーとなる今お馴染みのメンバーと出会い――真田だけはテニスクラブ時代からの付き合いだけど――毎日充実した日々を過ごしていた。
直に精市と真田と蓮二が1年生ながらにレギュラーに選抜されて、一時部内が騒然となったのは今でも覚えている。
かくいう私も初めての県大会の頃にはレギュラーを取ったんだけども。
そうして無事に男女ともに全国優勝を果たし、2年の夏には私と精市が部長となった。
共に三連覇を誓った私達は無事全国二連覇を飾った。
ちなみに2年になると仁王が柳生をゴルフ部から引っ張り込み、秋には1年の時の全国女子決勝で対戦した大阪の四天宝寺から後に親友となる明日香が転校してきて、更に毎日が活気に溢れた。
――当時、幼い頃からずっと精市といたせいか自分から友達をつくるのが少し苦手だった私。
更には1年からレギュラー入り、女子テニス部部長という立場とつるんでいる面子が面子なだけに、周りからは近づきにくく思われていたらしく、同性の友達は片手で余裕で足りるくらいしかいなかった私を、今の様に自分からでも話せるように変えてくれたのは彼女だと思っている。


何もかもが順風満帆。
誰もがそう思っていた。
しかし、私達をぱっくりと飲み込んでしまった闇は、今思えばこのときから足元に近付いていたんだ。


――精市の病気。そして、私の右肘の怪我。


1年後の全国大会決勝。
男子テニス部が負け、女子テニス部が勝ったその日。
私の選手生命は終わった。



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