短編集 | ナノ


入学式から数日。
授業が始まり高校生活も本格的に始動しだした今日は何事もなく終わり、放課後の部活動の時間。
本来ならまだ部活動は今日からが仮入部期間だが、内部進学の私達は春休みから練習に参加させてもらっていた。


「部活〜部活〜!」
「今年1年はどれくらい入るんだろ」
「外部は少ないから内部組がどれぐらい入るかじゃないかな」
「何人かは入らねえって聞いたぜぃ」


HRが終わって私達はテニスコートに向かう。
部のメンバーはやっぱりエスカレーターということもあって基本的には変わり映えしない。
それは先輩も然り。
中学から続けて同じ部活動をする人が多いのはこのテニス部も同じで、ほとんどが見知った顔なのである。
…まあ、それは向こうも同じことなんだけど。
中学の時から割と校内で有名だった精市達テニス部は高校になってもやはり有名だった。
部活見学解禁となってからは、ギャラリーは明らかに増えたと思う。


「あ、仁王と柳生だー」
「おう、遅かったな」
「二人が早いって珍しいね。特に仁王」
「…やーぎゅに引きずられた」
「当然のことをしたまでです」
「む、仁王さぼろうとしたのか!?たるんどる!!」


部室前で出会った二人と話していると、隣で明日香が何かを見つけたように手を振り上げた。


「あ、せんぱーい!!」
「お、来た来た。早く着替えなよ明日香」


明日香の声に反応してこちらに近付いてきたのは私達もよく知る女テニの3年生。


「…切原先輩、こんにちは」


そう、今は中等部の部長を務めている赤也のお姉さんである。


「お、吹雪もいるじゃんー!男テニやめてこっち来る気なったかー?」
「いたっ、先輩痛いですあとやめないです」
「やだー吹雪可愛くないー」


切原先輩は私達が中1だった頃の女テニの部長だった。
早くから上級生との練習に入っていた私は人一倍彼女にお世話になっている。


「もう!女子だってマネさん足りないんだぞー」
「新入生から3人入ったじゃないですか…」
「あはは、ばれたか。いやでも…いつでもおいで。あんたを待ってるのはいっぱいいるから」
「せやでー!吹雪いやな面白くないしな!」
「明日香は早く着替えてきなさい」


そう先輩に促された#明日香#は「先輩のケチー!」と頬を膨らませながら部室へと入っていく。


「…腕はどうなの?」


明日香が入っていったのを見届けて、切原先輩は尋ねてきた。


「…まだ長時間のプレイは出来ないし、パワーのある打球は打てないし打ち返せません」
「そっか…」
「でも精市たちもリハビリ付き合ってくれてるし。絶対治してみせます」
「頑張りなよ。出来たら卒業までによろしく」
「…善処します」


よろしい、とにっこり笑って先輩は精市達に向き直る。


「幸村君たちも頑張ってね。あと赤也が寂しがってるからまた暇なとき顔出してやってよ」
「1週間ぐらい前に行ったばかりなんだけどな…、また行きます」
「悪いねーうちの弟が。でもま、よろしく」


そう笑って、んじゃまたねーと切原先輩はコートに戻っていった。
それに合わせて精市達も着替えに部室へと入っていく。
しかし私は、早く着替えないと、と思いつつもぼんやりと先輩が歩いて行った方を見てしまう。
――私があそこに戻れるのはいつになるのかな。
そっと右肘を撫でる。
込み上げてきた苦い何かを噛みしめた私の頭の上に、大きな手が乗った。


「…仁王」
「プリッ」


見上げた先の仁王と目が合うと、彼はお決まりのセリフを口にした。


「あは、大丈夫だよ!」
「ならはよドリンク作りんしゃい」
「その前に着替えが先でしょ?」
「プピーナ」


もう一人の【親友】の不器用な優しさに思わず笑みがこぼれる。
――仁王のこういうところにはずっと助けられてきた。
…まあ口が裂けても言わないけどね?
キモいって言われておしまいだし。





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