第一話「名前」


「ぬらり〜」

未来は手を大きく振りながら

木陰で読書をしている

愛しい人のもとへ

走っていった。

呼ばれたぬらりも

書物から目を離し

愛しさがこもった瞳で

未来を見つめた。

二人の想いが通じあってから十日。

未来は花嫁修行も兼ねて

春日の手伝いをしていた。

「相変わらず元気ですね

未来様」

「うん!

って、ちょっと待って!」

ぬらりのもとへ来て

未来は抗議の目をむけた。

「ぬらりったら

また敬語と様付けになっているよ!」

頬をふくらませて文句を言った。

「すみません。

じゃなくて、すまない。

まだ慣れていないんだ」

「まあ、一ヶ月も様付けだったからね〜。

じゃあ、ちゃんと呼んで」

甘えるような声で未来は言った。

「仕方がないな」

そう言って

ぬらりは書物を地面に置いた。

「未来、大好きだ」

「きゃー!」

未来はその場でシタバタした。

「照れることないだろ?」

「だって大好きと言ってまでは

言ってなかったから」

そう言って未来は

ぬらりの横に座り

ぬらりに寄り掛かって

目を閉じた。

「私も大好きだよ、ぬらり」

それを聞いて

ぬらりは未来の肩を抱いた。

昔は周りから恐れられていたぬらりが

優しい、心から安心した笑顔を

浮かべていた。

「仕事には慣れたか?」

「うーん、春日が厳しくてさ」

未来はうつむいた。

「未来のことを想ってのことだろ?」

「そうだけどさ…」

「未来様〜」

すると春日の声が聞こえた。

「まずい、呼ばれちゃった!

じゃあね、ぬらり!」

未来は走って戻ろうとしたが

なにかを思い出したように

ぬらりの所へ引き返した。

「忘れ物!」

そう言って未来はぬらりの頬にキスをした。

「全く…」

今度こそ戻っていった未来の背中を

見つめながら

ぬらりは顔が緩むのを感じた。

空は晴れ渡り

日差しは春の訪れを感じさせた。


to be continued







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