第十話「召喚」


体調が回復した未来は

部屋で妖魔界の歴史について書かれた本を読んでいた。

(でも…)

妖怪のことを知るのも大切だろうと、春日に頼んでかりた数冊の本を眺めた。

(本当はもっと大事なことが思い出せない)

未来が妖魔界に来て、10日が経とうとしているが

いまだに人間界での記憶が戻らない。

いつかは戻ると、ぬらりも言っていたが

自分が何者なのか分からない状態は辛い。

(ぬらり、どうしているかな?)

昨日、大事だと言ってくれた優しい顔が忘れられなかった。

気がついたら未来は、ぬらりの妖怪メダルを手にしていた。

(呼んで、いいよね?)

誰かに、いやぬらりにそばにいてほしい未来は立ち上がり

メダルを差し込んだ。

すると妖怪ウォッチが光り出す。

「お願い、出てきて!ぬらり!」

未来は目を瞑って叫び、再び目を開けると

そこにはいつもの優しいぬらりがいた。

「ぬらり!」

「ようやく呼び出してくれましたね」

まるで未来が辛いのを分かっていた、という様子でぬらりは微笑んだ。

「ごめんね、忙しくなかった?」

「大丈夫ですよ、それより…」

ぬらりは遠慮がちに未来の頬に触れた。

「あ…」

それで未来は泣いていたんだと自覚した。

「記憶のこと、ですね?」

「ぬらりはなんでも分かっちゃうんだね」

未来は慌てて涙を拭った。

「貴女も大王様も分かりやすいですから」

ぬらりは一度笑い、すぐに真剣な表情をした。

「記憶が戻らないのは辛いと思います。

 それなのに…」

ぬらりはすぐ近くにある未来の瞳を見つめた。

「貴女はいつも笑顔でいましたね」

「でも泣いちゃったよ」

「いいえ、泣くことは間違ったことではありませんよ」

そう言うとぬらりは未来の髪を撫でた。

なぐさめるように何度も。

「泣いていいんですよ」

「でも…」

「貴女は泣くべきです」

「ぬらり…!」

リミッターが外れたかのように未来は泣き出した。

そんな未来をぬらりは優しく何度も頭を撫でた。

「貴女は私の過去を受け入れてくれました。

 だから、今度は私の番です」

ぬらりは未来を見つめた。

「記憶が戻らない貴女のおそばにいさせてください」

「うん…うん!」

未来は何度も頷いた。


to be continued







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