第九話「熱」
「風邪ですね」
専属の医者は未来の部屋から出て、エンマ大王とぬらりに言った。
「そうか…」
エンマ大王はうつむいて呟いた。
「私は薬を持って参ります」
医者はそう言って礼をした。
「ああ、頼んだ。
未来と会って構わないか?」
「ええ、大丈夫でしょう」
そう言われるとエンマ大王はノックもせずに、未来の部屋へ入った。
ぬらりも少しためらいつつ続いた。
「エンマ大王、ぬらり…」
未来はベットから起き上がろうとしたが、エンマ大王は手で制した。
「無茶しないでください、貴女は病人です」
ぬらりも自然と咎めるように言ってしまった。
「すみません」
エンマ大王は医者が使ったのだろう、ベットの真横にある椅子に腰かけた。
「謝るのは俺の方だ。
人間界から急に来て、疲れただろう」
「そんな、毎日楽しいのに…」
「無理すんな、辛いなら言え。
俺たちは婚約しているんだ」
エンマ大王は出来るだけ優しく言った。
「それに、ぬらりも心配して部屋の前で右往左往してたぜ」
「大王様、余計なことは…」
「でも本当のことだろ?
それくらい俺たちにとって、未来は大事なんだ」
エンマ大王はそう言うと未来の額に手をあてた。
「まだ熱いな…苦しいか?」
「少し…」
「大王様、あまり長居すると未来様のお体にさわりますよ」
「そうだな。未来、なにかあったらメダルを使え」
「はい」
未来は力なく頷いた。
それから一眠りして目覚めたら、もう夕暮れだった。
驚いたことに部屋にはぬらりがいた。
「ぬらり?」
すこし離れたところで書物を読んでいたぬらりは顔をあげた。
「お目覚めですか、気分は?」
「うん、だいぶよくなったよ」
未来は正直に答えると、ぬらりは書物を置き未来に近づいた。
「確かに顔色がよくなりましたね」
「でしょ?でももしかして、ずっとここに?」
「大王様が珍しく仕事は自分一人でやるから
未来様についていろ、とのことでした」
「そうなんだ」
エンマ大王の優しさが未来の胸に染み渡る。
「熱出たときに誰かがいてくれるって、こんなに幸せなんだね。
もちろん誰でもいいわけじゃないけど」
「未来様」
ぬらりは急に名を呼んだ。
「ん?」
「先程の大王様のお言葉は本当です」
未来は、夕日が照らしいつもより妖麗なぬらりの顔を見た。
「初めて会ってから、まだ数日しか経っていませんが
私たちにとって未来様は大事なお方です」
「ぬらり…」
「だから無理はなさらないでください」
ぬらりは優しい顔をしていた。
「ありがとう」
未来は感謝の言葉を言い
ぬらりたちとずっと一緒にいたいと想った。
to be continued
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