迷子



「あーくそー!!」

「わっ!何ですか総隊長」


書類らしき巻物と睨めっこしていた黒燈は苛立たしそうに巻物を机に放り出して椅子にもたれかかった
それに部下は驚いた様に黒燈を見ていた


「あー、何でもねぇ。気にすんな」


とは言われたものの部下達は気になるようでこそこそと雑談を始めた


「総隊長が変になったのあの舞姫と任務に出てからですよね」

「そうだな。あれからやけに窓の外見たり、物思いにふけっていたりしてるよな」

「もしかしてもしかするのかしら?」

「まさか!総隊長が舞姫を!?」


いい加減な事を話す部下達は黒燈に丸聞こえなのに全く気がついて無いのか話も声の音量もヒートアップしていく


「一目惚れだったりするんじゃない?」

「確かに舞姫って謎だらけだけどすっげー美人って俺、聞いたことあるぜ」

「美人ねぇ…でも年齢も不明なんだろ?」

「確かに変化だって噂もあるぐらいだからな」

「やっぱり外見だけで惚れたらやばい相手よねー」


確かに外見だけじゃ色々まずい相手だろうなと書類整理をしながらいつまで続くか分からない雑談を聞き流す


「でも、年齢以外にも性別も不明なんでしょ?」

「あーらしいな。女だって言う奴が多いみたいだけど実際見て見なきゃ分かんねーよな」

「見てもわかんなかったりして!」

「あぁ、分かんなかったな」

「「「!?」」」



話に気が付いても叱ってくると思っていた三人は話に乗って来た黒燈に驚き固まった


「なんだ?」

「い、いえ」

「てっきり無駄口叩くならさっさと手を動かせとか言われるのかと思ってましたので」

「何だ言って欲しいのか?」


いえ結構です!ときっぱり断った三人はまるで逃げるように書類を持って各部署に向かった


「全く…」

「元気ないですね」

「まぁな。あいつらがあること無いこと言いふらさなきゃいいが」

「そうですね。まぁ、私には関係ありませんが」

「そうだろうな。で、何の様ですか?噂の舞姫様」


どこから聞いていたのか普通に現れた蒼火に黒燈は声がする方へと顔を向けた


「暇つぶしに散歩をしていたら迷いまして」

「………ここに来るまでにトラップがあったと思うんだが」

「解除してきました」


多かったですと呑気に言う蒼火に黒燈は肺の空気を全部吐き出すかの様な深い溜め息を吐いた

蒼火が解いてきたと言うトラップは数百の複雑に組み合わさった部外者を一歩も近付けない為のトラップである筈だ

部下や総隊長の黒燈なら何もしなくとも入る事は可能だが…


「トラップ強化とかしてませんよね?」

「…少しだけ変えちゃいました」


テへとでも語尾に付きそうな勢いで暴露した蒼火に何回目かになる深いため息を吐くのだった





「それにしても幻術トラップとはな…」


見事にトラップに引っかかっていた部下達をトラップから解除した黒燈は落ち込んでいる様子の蒼火を見た


「えっと、その…す、すいませんでした」

「あーいえ、トラップが強化されたのは有り難いですよ」

「ありがとうございます。敬語使い辛いのなら使わなくて構いませんよ?」

「いいんですか?」


コクコクと頷く蒼火に堅苦しいのが嫌いな黒燈は蒼火の申し出をすんなりと受け入れることにした

「私がここにいると仕事進みませんよね」

「いや、好きなときに来れば良い」

「でも、いつ敵になるか分からないんですよ?」


確かにいつ敵になってもおかしくない相手を暗部総隊長の部屋に上げると言うのは木の葉の者としてはやっては決していけないことだ
前回の戦闘でも見せつけられた圧倒的な実力差
木の葉の忍び全員でかかっても一人で切り捨ててしまえるだろうその実力に鳥肌が立つ程興奮を覚えた


「敵になったら容赦はしないさ」


他国に渡るとき前にいた里の情報は決して漏らすことが無いと言われる蒼火だが、こちらの戦術などを知られても命取りだと頭では分かっていても何としても蒼火と接点を持ちたかった


「そうですか」


嬉しそうに笑った蒼火の笑顔にドクンと胸が高鳴ったのを無視して、黒燈は慌てて話を反らすことにした

「こんな場所にいるって事は…まだ街の方は回ってないのか?」

「はい。綱手姫に依頼の完了を伝えたまでは良かったんですが…そっから全く自分が進んでいる場所が分からなくなってしまって」


それは明らかな迷子だろと思いながらそんなんで良く任務遂行出来てるなと関心半分呆れてしまう


「依頼の時は迷わないんですけど…」

「依頼以外は迷うと」

「…はい。綱手姫はそれを知っていますので、案内役をつけると言って下さったのですが…」


使い物にならなかったのか蒼火の破天荒差についていけなかったか、とりあえずさっきから申し訳なさそうに部下の看病をしている蒼火は全く血を知らない無垢な少女に見える


「そう言えば、あんたって女なのか?」

「良く言われますけど男ですよ」


何なら確認でもしますか?と服を脱ごうとする蒼火を慌てて止めた黒燈は、その行動に間違われたことで何か嫌な思い出でもあるのだろうと察した


「とにかく、街を案内してやるよ」

「助かります」


ホッとしたように笑顔を向けてくる蒼火に高鳴る胸を抑えるように黒燈は咳払いをし、蒼火の手を取った


「なら、早速行くか」

「はい!」




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実は迷子が得意な蒼火さんw
そしてちょっとドジっ子だったりすると私的にベストだったり・・・

2013.12.12 完成



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