選んだ道 (スレシカスレナルコ)



リンッ…リンッ

澄んだ鈴の音に誰もが足を止めて耳を澄ます


「胡蝶(こちょう)」

「はい」


蒼色の流れるような長い髪と金色の目を持ち、凛とした声を出した胡蝶と呼ばれる人物は美しい着物を纏い、まるでこの世の者とは思えない空気を出していた


「お呼びだよ」


今日の依頼主がと言葉が先に来そうだと笑う胡蝶にさっさとお行きと追っ払うこの店の遊女にもちろんと依頼主の元へと足を向けて歩き出した

今回のは木の葉隠れの里の者からの依頼だと聞いた

今回の“仕事”は木の葉に優位な情報を渡す事だ。


「そろそろこの名前も変えるべきですかね」


この頃、胡蝶の名が広まり始めたからだ
引きつけられる者は多く、気付けばこの店のNo.1になってしまっていた


「失礼します」


襖を開けてお辞儀をすると部屋にいた黒髪と同じ色の瞳を持つ木の葉の忍びがいた


「ご指名ありがとうございます。」


顔を上げれば見惚れて固まっている依頼した里の使いに襖を閉めて近付いた


「木の葉の方ですね。」

「あ、あぁ。火影様からの…」



任務で来たと言おうとしたのだろう“お客様”に胡蝶は唇に人差し指を置いたそれ以上は言わなくて良いと言う様に


「黒燿(こくよう)様でしたね?」

「あ、あぁ」


黒燿と言えば木の葉だけでなく色々な所で名が出て賢者とも呼ばれている者のこと

その名を堂々とこんな場所で使うのは良いのだろうか?


「ふふっ…名前ぐらい偽った方が良かったと思いますよ」

「情報が渡ってるって聞いたから問題無いかと思ったんだが」

「私は問題無くても噂になりますよ」


ふふっと笑えば黒燿は納得したように頭を抱えた


「さて、本題に入らせて頂きます」

「あぁ、あちら側の今の現状を知りたい」

「暗部20人、上忍50人。血継限界を持つものが暗部に一人。あとは実力は貴方に叶う者はいないと思いますよ。」

「そうか…場所は?」

「貴方の予想通りかと」


欲しい情報を与える胡蝶は木の葉だけでなく他の里とも情報を買いに来る者はいる

だが、木の葉に売る情報は徹底的に調べてから知らせることはしない


「以上ですが、他に聞きたい事はありますか?」

「いや、欲しかった情報は手には入った。これで戦略を立てやすくなった」


もう戦略を立て始めているのだろう黒燿は流石木の葉の頭脳と呼ばれるだけあって今聞いた事を瞬時にまとめて、最低限の人数、それに適任の人物を割り出していっているのだろう


「ふふっ、黒燿様。今回の戦い私もお供させて貰っても宜しいでしょうか?」

「は?いや、今回は人数もいるし危ないだろ」

「自分の身は自分で守れなければ情報屋なんてやってませんよ」


元々合う前から興味はあったが今は会う前より興味が尽きない


「だが…」

「勝手に着いていくんです。何があっても貴方に迷惑はお掛けしませんよ」

「……はぁ、分かった。許可しよう」


何を言われても折れないと分かったのか溜め息混じりに許可を下した黒燿に胡蝶はにっこりと笑いかけるとでは…と集合場所を決めていった


「時間だな」

「そうですね。ではまた明日の夜に」

「あぁ」




静まり返った森には闇が広がり動物達は人の気配に身を隠す
待ち合わせの場所へと先に到着した黒燿は周りの気配を探りながら暗部の部下にしばらく待つように言い渡した
そこに音もなく現れた朱い着物を羽織った女性がすっと頭を下げた

「お待たせ致しました」

「あ、いや、さほど待っていない」


一瞬見とれてしまいどもりながらも返事を返した黒燿は気を取り直す様に咳払いをした


「そ、総隊長この方は?」

「来るまでに話した情報屋だ」

「…胡蝶と申します。今日はよろしくお願い致します」


見とれていた部下達が気を取り直し一人が代表して質問をすれば黒燿は一様紹介はいるかと思い胡蝶のことを告げればこんな可憐な方だとかすっげー美人だよなとか言っている部下達に胡蝶は追い打ちをかけるように笑顔を向ければ部下達はこんな嫁さん欲しい!とか結婚して下さいとかプロポーズ始める奴まででる始末こんなんで任務になるのかと頭を抱えたくなった


「それで、木の葉の頭脳の戦略は…?」

「敵は嫌でもここを通らないと里を抜けることができない。いや、出来ないようにトラップを仕掛けたからここしか逃げ道はない…」

「それではトラップがないと余計に疑って警戒をするのでは?」

「そうだな。けどよ、警戒して貰った方が巻物持ってる奴を探しやすいもんだ」


そういうものですか?と首を傾げる胡蝶は戦略に納得行かないのかうーと唸っていた
確かに納得はいかないだろうトラップを仕掛けるなら敵が来るところに正確に設置し、仕掛け奇襲をした方が効率的にもいいだが、今回はわざわざ面倒な手を使って捕らえようとしている


「向かって来る者は?」

「殺して構わない、俺達の目的は巻物だ」


忍びの顔になった胡蝶に黒燿はニヤリと笑い目的を話した


「では、私は向かって来るものの始末を…」

「あぁ、お前らはそれぞれに待機」

「「御意」」


それぞれに配置に着いた黒燿達は敵がトラップに引っかかるのを待った
空気に溶け込んでいた胡蝶が来るとポツリと呟いた瞬間敵のクナイが木に当たった


「木の葉の暗部か!」

「ご明察、巻物を渡して貰おうか」

「渡すわけがないだろ!!」

「だろうな、めんどくせー」


殺気剥き出しの敵に黒燿はガシガシと頭を掻くと心の底からめんどくさそうに溜め息を吐き出した


「なら、奪うまでだ」


刀を抜いた黒燿に他の暗部も刀を構えた
その中、ポーチから銀糸を出した胡蝶は糸にチャクラを流し込んだ
流し込んだ糸は胡蝶の手を離れ敵の懐に入り目当てな物を探しながら次々と敵の懐を探った


「?…胡蝶、何してんだ?」

「暇なので少し巻物探しを」

「暇ってなぁ…」


鉄扇子で敵を始末しながらにっこりと黒燿に笑顔を向ける胡蝶に黒燿は底が知れないと思いながら会話を続けた


「それで巻物は?」

「ここにはない様ですね」

「やっぱりな、なら雑魚には用はないな」


敵を一人を残し一掃し、気絶させておいた敵に蝶火は近付いた


「お、おい!」


何する気だと声を荒げる黒燿に蝶火は落ち着いたように印を組んだ
その瞬間、花の香りが蝶火の周りに漂った


「巻物を持った者は?」

「…北のトラップを抜けて里に向かっている」

「里?」

「木の葉の里」


匂いを嗅いだ敵の目がうつろになり操られる様に言葉を発した
それを呆然と見ていた黒燿はハッとしたように木の葉と聞いて慌てた


「なっ!木の葉だと!?」

「あなた達の目的は元々木の葉だったんですか」

「あぁ、俺達はあの禁術を木の葉に」

「なる程、黒燿様至急木の葉に」


鉄扇子で敵の首を落とし青い炎が敵を包み跡形もなく消え、それを見届けることなく黒燿に目を向けた


「だが、今から向かっても…」

「間に合います」


トラップで時間稼ぎにはなったとはいえ、今から追っても間に合う訳がない
だが、きっぱりと間に合うと言い切った蝶火の笑みに黒燿はゴクンと生唾を呑んだ


「本当か?」

「えぇ、皆さんいいと言うまでその場から一歩でも動かないで下さい」


緊張した面持ちで問いかける黒燿に蝶火が印を素早く組みその場の者に目を向けた


「いきます!」


全員が頷いたのを見た蝶火は満足そうに頷き印を組んだ手を地面へ付いた



「…ここは」

「木の葉です」


一瞬目をつぶった黒燿達は目を開けたとたん風景が変わった事に驚いたが蝶火の冷静な声にハッとして部下に指揮を取った


「今すぐ火影様に報告を。俺は敵を追う!」

「はっ!」

「黒燿様、私は案内を」

「あぁ、頼む」


二手に別れて走り出した黒燿達はそれぞれに木の葉を守ると心に決め必死に足を動かした


「黒燿様、申し訳ありませんでした。木の葉を狙っていたとは情報不足で…」

「手伝って貰っているんだ。それはいい今はそれより敵を止めるのが優先だ」

「!…はい」


首を斬られてもおかしくない情報不足だったのにそれをいいと言った黒燿に蝶火は心の中でありがとうと呟き今は敵の事だけを考える様に返事をした


「本気でいきます」


鉄扇子を出した蝶火はそれを開くと敵のいる方へと向け投げたそれは円を描くように飛んでいき、敵を一人仕留めたそのまま蝶火の元に返って来たのを片手で受け止めた


「いきます」


敵に突っ込んだ蝶火はまるで舞うように敵を鉄扇子で一撃で仕留めていく
それを綺麗だと思った黒燿は首を振り敵へと刀を抜いた


「くっ!バレたのか!!」


黒燿の面を見て木の葉の者だと分かったのか黒燿の刀を受け止めた敵は悔しそうに叫んだ


「木の葉を狙わせねぇ!」


刀に力を込めた黒燿は刀を滑らし敵の首を狙った
だが、それをぎりぎりに避けた敵の首筋から少し血が流れた


「黒燿様!そいつです!」


敵を鉄扇子で倒しながら全体に目を向けていた蝶火は黒燿が相手している者を見て叫んだ


「お前か!」


キーンと刀同士が交わり鉄の音が響く中、黒燿は目の前の敵を睨んだ


「お前らに構っている暇はない!」


印を組んだ敵は口から毒々しい色をした液体を黒燿に向けて吐き出した
それを避けた黒燿はその液体が当たった場所を見て眉を潜めた
そこには木が溶けた様にへこんでいた

「毒か…」


厄介な敵に当たったと思いながらどの様にしとめるか頭でシュミレーションを行ったまず影縛りで敵の動きを止め、起爆札を仕掛け爆発させダメージを受けている敵の首を落とす

簡単なシュミレーションに上手く行くかと思いながら黒燿は印を組んだ
すると影が敵を縛り上げ敵は身動き一つ動けなくなった
そこに起爆札が付いたクナイを投げた

それまでは予定通り

だが、敵はクナイを影に当て解けた瞬間起爆札が爆発する前に後ろに跳んだ


「そう上手くはいかないか…」

「そうですね、一歩甘いです」


舌打ちする黒燿に対しいつの間にか敵の後ろに仕掛けた銀糸を引っ張った蝶火は敵の首をあっさりと落とした


「蝶火あぶねぇ!」

「!」


敵から吹き出た血が針の様に尖ったと思えば蝶火に向かって飛んで来た
鉄扇子で弾こうにも間に合わずとっさに目をつぶった蝶火は来るはずの痛みに構えたが、一向に来ない痛みにうっすらと目を開けた


「黒燿様!?」

「…無事…か?」

「なんで!庇ったりなんて!!」

「…何で…だろうな…ゴホゴホッ」

「今すぐ治療しますっ」


チャクラを手に込めるが皮膚が紫色をしているのを見て蝶火はとっさに毒だと分かり焦った


「っ…ゴフッ…」


血を口から吐き出す黒燿に蝶火は自分を落ち着かせるように深呼吸をした


「恨みごとなら後で聞きます」


指を噛み血を出した蝶火はそれを口に含み黒燿に口付けた

蝶火の血が黒燿の喉を通り全身へ行き渡る


「…っ…これはっ」


チャクラの満ちる感覚と息苦しかったのが嘘のように落ち着き怪我をした場所はもう塞がり始めていた


「本当はあなたをこの力で生かすべきではないんですが、私はあなたを気に入ったみたいです」

「蝶火…?」




それをバラしてでも助けたいと思ってしまった


「寝て下さい。目が覚めた時にはいつもの日常です」


いつもの日常、それは蝶火がいない事を指しているのだろう
ぼんやりとした意識の中でもそれは何となく理解できた
頭を撫でる蝶火の手を取ると失いそうな意識の中言葉を紡いだ


「…俺は…忘れない…」



そう、たった二日間しか話した事がない蝶火のことを忘れたくない
なかったことにしたくない
そう思いながらも瞼は重くなり意識を失った



「シカマル!聞いているのか!?」

「はいはい、聞いてますって」


めんどくさそーに綱手姫、火影の言葉を聞く奈良シカマルはぼんやりと数日前のことを考えていた

蝶火と別れた時のことを

あれからというもの情報屋、蝶火の名前は一切聞こえなくなった
一日眠り続けた黒燿ことシカマルはその噂を聞いて探し回ったが簡単に見つかる訳がなかった


「シカマル!」

「あー聞いてませんでした」

「蝶火のことを気になるのは分かるが目の前のことに集中しないか!」

「すいませんでした」


シカマルの答えに綱手は流石に頭を抱えそうになった
だが、言葉だけの謝罪にイラついたのも事実だ


「まだ探す気かい?」

「勿論です。助けられぱなしはいやなんで」

「そうは言うがねぇ、その蝶火が行方不明じゃないか」


そんなことはとっくに分かっている
蝶火が黒燿より力があることも分かっている
だが、それでも探したい


「そんだけならもう帰ります」

「こら!シカマル!!」


窓から出て行ったシカマルは今日も場所を変えて蝶火を探しに向かった


「一体どこ行ったんだよ」


ポツリと呟いたシカマルは眩しく輝く太陽に目を向けた


「黒燿様」

「!…蝶火?」


休憩に木にもたれかかっている時だった気配もなく木の反対側から聞こえた声に黒燿は振り返った


「何で探してらっしゃるんですか?」

「言いたいことがあってな」

「言いたいこと?」


さらっと蒼色の髪が風に煽られそれを耳へかけた蝶火は言いたいことと言うのがとても不安で悲しげに顔を歪めた


「好きだ」

「え…」

「だからお前が何者でもいい。俺は蝶火、お前が好きだ」


突然の告白に驚きを隠せず蝶火は戸惑った


「なんでっ」

「上手くいえねぇけど、お前がいなくなった時俺の中で何かを失ったんだよ。」

「何ですかそれ」

「あぁーくそっ、わかんねぇーけど、好きだと思ったんだよ!」


頭がいいはずのシカマルが理屈なしで好きだと言った事に蝶火は笑い声を上げた


「はははーっ!」

「なっ!」

「何ですかその理由!もっとかっこよく告白できないんですか?」

「仕方ねーだろ!初めてなんだから!」


笑い続ける蝶火に対して顔を真っ赤にして叫ぶシカマルは良い大人なのに可愛く移った


「はーでも、何も知らないのに好きにならない方が良いと思いますよ」


落ち着かせるように溜め息を吐いた蝶火は真剣な顔をして続けた


「私は特に…」

「けど俺は、お前が良い」

「後悔しますよ」

「してもいいさ」


諦める気配のないシカマルに蝶火は根負けをして何度目かになる溜め息を吐き出した
その目は先程の鋭さはなく少し困った様に笑っていた


「馬鹿ですね」

「何とでも言えばいい。俺はお前が好きなんだから」

「そんな馬鹿な貴方が好きですよ」

「!本当か!?」

「嘘付いてどうするんですか。いつか全てを話しますから、それまで待っててくれますか?」


頬をほんのり赤く染めそっぽを向く蝶火にシカマルは嬉しそうな笑みを浮かべ蝶火を力いっぱい抱き締めた


「待つさ。蝶火が話そうと思うその時まで」


目が合わさった二人は自然と口付けを交わしていた

蝶火とシカマルが選んだ道は決して楽には行かない

だが、二人だから乗り越えられるそんな気がした




2014.9.21 完成

ここまで見て頂きありがとうございます。
いや〜3年近く眠っていた作品を出せる日が来ようとは…
蝶火の正体は明かされず終わってしまいましたが、きっとシカマルに打ち明ける日は来ます!そこは皆様の想像力にお任せして…
今回は結構力を費やした感があるので少し一段落してから
次の作品…長編によくやく手を付けたいなぁと思っています!
ではでは、また次の作品こと駄作でお会いしましょう!



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