当たり前になる日常


 名字名前は二宮隊の狙撃手である。
 ちょっとした事情があって前任の狙撃手がいなくなってしまった時に、ここぞとばかりに二宮隊に居座ってそのまま隊員になった押しかけ女房ならぬ、押しかけ狙撃手である。





「こちら名字、目標発見〜。打っちゃっていい?」
「待て、辻を向かわせるから援護しろ」
「名字了解」

 廃ビルの一角を陣取り、うつ伏せになってアイビスを構える。視線の先ではバムスターが数体が巨体をうねらせ、周りの家屋を破壊している。当の昔に警戒区域になっていて誰も住んでいないとはいっても、かつては誰かの帰る場所だったんだから簡単に壊してくれないでよ。このまま頭を打ち抜いてやりたい気分だけど、隊長様の命令があるので大人しく辻ちゃんの援護だ。スコープを覗き、引き金に指を添えた。

「準備オッケー。辻ちゃん、いつでも行けるよ」
「はい。こちらも問題ありません。ひゃみさん」
「合図は任せて」

 ひゃみちゃんの返事を皮切りに、辻ちゃんが素早くバムスターへ近づいて行く。私はレンズ越しにバムスターを捉え、照準を定めた。「200m、150m、100m……」ひゃみちゃんが、辻ちゃんとバムスターの距離をカウントする。それは確実に0へと向かっていく。

「名字さん!」

 ひゃみちゃんの合図で引き金を引く。弾丸は真っ直ぐバムスターへと向かい、着弾する。側頭部を打たれたバムスターはバランスを崩しその巨体を支えられず体制を崩していくが、地面へ身体が到達するより速く辻ちゃんが弧月を振るった。
真っ二つになったバムスターが大きな音を立てて倒れていく。

「オッケー辻ちゃん! この調子で全部ぶっ倒そー!」
「あ、はい」
「辻ちゃん〜ノリが悪い。一人はしゃいでる私が馬鹿みたいになるじゃん」
「……」
「辻ちゃん? 何で無言なのかな?」

 最近の後輩は生意気だな〜!可愛いので許しちゃうけど。なんてことを思いながら、次の獲物に狙いを定めて撃ち抜いていく。
 一体、また一体とバムスターは倒れていき、あっという間に全滅した。

「目標の沈黙を確認。撃破しました」
「はーい。ひゃみちゃんサポートありがと! 辻ちゃんもお疲れ様ー!」

 戦闘を終えた辻ちゃんを見つけたので「ハイタッチでもする?」と片手を挙げて近づくと、一歩後ずさりをされた。……足を一歩進める。辻ちゃんが一歩下がる。また進む、下がる。

「ねぇ〜! いい加減慣れてくれてもいいんじゃない!?」
「いや、まだ触られるのとかはちょっと……。あっそれ以上近づかないで下さい」
「ひゃみちゃんとは普通に接するくせに……」
「こら。あんまり辻ちゃんいじめない」
「あ、澄晴。そっちも終わった?」

 肩を叩かれ振り向くと、別の地点でバムスターを相手にしていた澄晴とニノがいた。そっちも片付いたようだ。澄晴の一言には「ていうかいじめてないからね〜!?」と反論しておく。後輩と距離を縮めるためのスキンシップであっていじめてはないと断固主張したい。
 今日は門が複数発生していたので分かれて対処したが、様子を見るに二人の方も大したことはなかったんだろう。

「二宮さんがアステロイドで穴だらけにして終わりだったよ。俺もこっち来ればよかったな」
「バムスター三、四体でそんな人手要らないって」

 図体はデカいが大した攻撃力を持たないため、倒すのに苦労はしない。辻ちゃんだって、仮に私の援護がなくても簡単に倒してしまっただろう。そもそも二宮隊は元A級。あんなトリオン兵に苦労する部隊じゃない。

「何をダラダラ話してるんだ。さっさと戻るぞ」
「はーい。澄晴〜戻ったら課題しよ。数学の量エグくてさぁ、一人でやるの嫌なんだよね」
「いいよ。俺も古文の課題終わらせたい」

 言葉を交わしながら本部への帰路につく。今日は比較的楽な防衛任務だった。苦労するってことはそれだけ被害も大きくなっちゃう訳だから、防衛任務なんて暇で楽に越したことはないのだけれどね。トリオン体でも疲労はするし、あんまり疲れると学校の課題なんてやる気無くなっちゃうもの。学生の本分はあくまで勉強。課題を終えるまでが今日のお仕事です!なんてね。

「おい」
「なぁに隊長」
「今日の連携、ランク戦までに氷見のサポート無しでも出来るようにしておけ」

 ニノの目が、俺の隊にいて無理だなんて言わないよな?と言っている。
 鳩原未来と入れ替わる形で二宮隊に入った私だけれど、狙撃手としての戦闘スタイルは未来と似ても似つかない。東さんの弟子らしく精密射撃とサポートを得意としていた未来と、グラスホッパーを使った機動力で前に出てでも点を取る私とでは同じ狙撃手でも隊での役割が全く異なる。それ故、二宮隊は一から戦闘スタイルを見直さなくてはならなくなった。今はその調整期間って感じだ。対人相手のランク戦と防衛任務ではまた勝手が違うだろうけど、流石にチーム同士で模擬戦するってわけにもいかないしね。手の内バレちゃうし。だから、こうしてトリオン兵相手にちょこちょこ試すのを繰り返している。

「心配ご無用。私これでも結構優秀な狙撃手なんだから」
「は、どうだかな」
「ひどーい。自分の隊員を信じなよ」
「俺が選んだんじゃない。お前が勝手に居座ったんだろうが」
「ええ〜そうだっけ? ま、後悔はさせないから♡」

 私がどれだけ騒ぎ立てようが入隊の可否を決めるのは隊長であるニノなんだから、受け入れたのはそっちであると声を大にして言いたい。言ったら絶対睨まれるから黙ってるけど。

「ね、ニノも課題手伝ってよ。今やってるところちょっと難しいんだよね」
「ふざけるな。なんで俺が」
「いいじゃん。お願い隊長教えてよ〜!」
「だったら俺も教わりたいとこあるんですけどいいですか?」

 澄晴が話に乗ってくると辻ちゃんもおずおずと「あの……俺も今の単元で分からないとこがあって」と手を上げた。ニノがお前もか、という顔をしたが自分の隊員には甘いところがあるから文句を言いつつも手伝ってくれるだろう。仏頂面でぶっきら棒なくせして、困ってたらちゃんと助けてくれるんだから二宮匡貴って男は憎めないのだ。
 ひゃみちゃんが「皆で勉強会ですね」と言うと、ニノは諦めた様に溜め息を吐いた。

「俺の時間を割くのだから無様な成績は取るなよ」
「はーい! 任せといて隊長」

 にっこりと笑って見せると、フンと鼻を鳴らし一瞥された。この野郎と思ったが、実に二宮らしい態度だ。もう少し私にも優しくなってくれれば言うことなしなんだけどな。

 「そうと決まればさっさと戻って報告書済ませちゃおうよ」そう言って走り出した澄晴を追いかけた。

 新生二宮隊は今日も元気で平和です!
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