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 "坂田くんと話してくるね"
 予防線のつもりで、友美を慰めてくれている友達、彩子ちゃんにメッセージを送った。これでもし友美に見られても変な言いがかりは避けられるはず…とただの浅知恵に過ぎない対策をとって、場所を探す坂田くんの大きな背中を追う。

 彼は人の少ないところで話したいらしい。きっと別れた彼女関係のことだろうから、あまり人目につきたくないのだろう。わたしは人の多いところがよかったから少し複雑だったが、内容的に仕方ないかと頷くしかなかった。

 坂田くんが選んだのは図書館だった。テスト前でもなんでもないそこは、ずいぶんと人気のない所である。敷地内の隅の席をチョイスし、対面で座った。
 ぼりぼりと後頭部を掻く坂田くんは視線を斜め上へ向けて、話の切り口を探しているように見える。彼が探ってくれているならわたしから敢えて切り込むこともないだろうと、依然として緩やかな空気を纏ったままの姿を眺める。

「来てくれねえかと思った」

 なのに有り触れた世間話をするように始められた会話の冒頭は、投げられた途端思わぬ変化を見せるボールのようで、こちらはあたふたしながら落とさないように受け取る。

「俺らさ、まだ友達?」

 スムーズなキャッチボールを続けたかった。だけど投げ返すのに二の足を踏んでしまう。坂田くんの言う友達が、どういう関係性のことを指しているのかよくわからない。それは思わず悩んでしまうほど、今のわたしたちは曖昧な状態だからだ。

「友美のことは俺なりにケリつけた。アイツからどういうふうに聞いてるかわかんねーけど…俺は自分の気持ち話して友美もそれに頷いてた。ちゃんと別れたんだよ」

 返事がないのにも構わず、坂田くんは話し続ける。音のない室内では、低く響く声もよく拾えた。だから聞き間違えるはずがない。彼らは合意のもとで別れている。

「悪かった。俺のせいで傷付けて、何度も泣かせたことには気付いてる。…それを慰めたのが高杉だってわかって、今さらだと思われるかしんねーけど」

 赤い瞳は揺るがない。真っ直ぐに、なんの迷いもなく見つめられて鼓動が大きくなったのがわかる。

 "ごめんなさい"
 終わりへと近付く夏祭りの最中に、他に彼女がいながら自分に向けられそうになった気持ちを、あの時はそんな言葉をもって断った。
 今回もそうするべきだ。だって、自分の友達と別れたあとにすぐそんなこと言ってくるような人なんだから。わたしも友美のように扱われる可能性だって、



「なァ、ななこちゃん」

 坂田くんの声はわたしの思考を遮る。

「俺のこと、まだ嫌いになってねーならやり直させてほしい。いちから全部、友達としてで構わねーから、高杉のことが好きじゃねーなら、…アイツとどんなことがあったかわかんねーけどそれも受け止める。今までななこちゃんが俺の嫌なとこ受け止めてくれてたみてーにさ」

 そしてじわり、じわりと心の奥底に染み込んでくる。痺れそうなほどの甘さを携えながら。
 坂田くんは矢継ぎ早に心境を吐露していく。わたしは、彼とはどこか違う世界にいながら、おとぎ話を聞いているような気分だった。



「好きだ」

「好きなんだよ」

「初めて会って一緒に笑ったときからなんか気になってて、思わず甘えそうになっちまう笑顔とか、こっちのこと全部まるごと包み込んでくれそうな優しさとかさ、大事にしてえし一番近くで見てたいんだよ」

「俺だけに向けてほしくてたまんねー」

「今さらでごめん。こんなタイミングでごめん。全部俺のせいなのはわかってる」

「でも今言わなきゃ後悔すんのもわかってんだ」

「ななこちゃんが好きだ。だから、」



 腰を上げて、身を乗り出してまで手を伸ばした坂田くんはわたしの頬に触れる。冷たくなっている指先は震えていて、拒まれないことを知ったなら彼は小さく微笑んだ。

「俺のこと、もう一回見て」


 
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