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「坂田くんって、本当話しやすいよね」
「そうか?」
「うん、入学してから初めて話しかけてくれた人っていうのもあるかもだけど」

 春休みの最終日、もとい昨日のこと。長期休みの最終日なんだからはっちゃけよう! そんな若さ故の空気感に呑まれ、いつものグループメンバーと遊んだ帰りに事件は起きた。
 それは家の方向のせいでふたりきりになってしまって、途端にやってくる緊張と戦いながら、前述の何気ない会話を楽しんでいたときのことだった。
 流れも読まず不意に”好きだなあ”と呟いてしまったのはわたしのミスだ。全力で訂正と否定をしたが、熱の集まる自分の顔は真っ赤だっただろうから恐らく本音だとバレていたんだと思う。

「ごめん」
「ううん」

 勢いに任せた告白は一言ずつ交わして終わった。それから無言のまま駅まで送ってもらって「ここでいいから」と押し切って別れた。
 手を振ったその時、笑えていたと思いたい。振り返る背中が遠のいて、少しずつ小さくなっていくのを見ていたら自然と涙が一筋溢れた。これが初恋だったから。

 坂田くんは人気者だ。女の子に囲まれていることも多い。すごく綺麗な子が彼を好きだというのも聞いたことがある。
 だから伝えるつもりなんてなかった。自分とは釣り合わない人だと感じていたから、卒業まで心に秘めておくものだと思っていた。ぽろりと漏れた気持ちを拾ってくれた坂田くんの驚いたような顔が、閉じた瞼の裏に張り付いて消えない。

 ボロボロ泣きながら電車に乗った。涙も鼻水も垂れ流していたから周りの人にはじろじろと見られていたと思う。
 悲惨な状態で揺られ、結局なにも止められないまま自宅最寄りの駅まで着いてしまった。トイレの鏡で確認したけど、真っ赤な自分の顔をどうすることもできずない。
 でも、どうせ帰るだけだ。そう諦めてから改札を出、未だに溢れ出る涙を拭っていたら勢いよく誰かにぶつかった。慌てて謝って、自分より背の高い位置にある顔を見上げる。思ったよりヤンチャしてそうな風貌の男性がこちらを見下ろしていた。

「なに泣いてんの? もしかして振られた系?」

 「慰めてやろーか」と続けて、急に肩を抱かれた。その力が強くて思わずよろめく。拒否したはずの自分の声は消え入りそうに小さく、男性には届かなかったらしい。ぐいぐいと引かれ、なされるがままに連れて行かれた。
 助けを求めようと周りを見るも誰も目を合わせてくれない。駅のロータリーに止められた箱バン。黒光りする車内には、彼と同系列の男性が乗っていた。こちらに気がつくとにやりと笑ったように見えた。
 そんなに頭がいい方ではないが、この状況がよろしくないことはわかる。ようやく足を突っ張って、男性の体を押した。逃げるために必死で抵抗した。なんとか離れたと思ったら右腕を強く掴まれて阻止された。
 そんなとき空いた左手が何かに当たった。もうなんでも良かった。当たったそれを思い切り掴んで引っ張る。

「助けてください!」



 ガツ! と痛々しい音が頭上で響く。

「なんだてめえ!」

 自分を叱る父親でさえ上げたこともないような、大きく荒々しい怒声が飛んできて、思わず肩を震えさせてしまった。
 自分の右腕をキツく握っていた手が離れていく。それを追うように目を開けると、わたしを連れて行こうとした男性と自分とを遮るよう、白の長袖のカットソーを着た人が立っていた。煙がくゆるようにゆっくりと振り返ったその人は、眼帯をした、これまたお手本のような不良だった。わたしが空いた左手で必死に掴んだのは彼の腕だと気づいた途端、サッと血の気が引いた。

 
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