たまには魔法使い
『………暑い』
洗い終わった洗濯物を籠いっぱいに抱えて干場に出ると、まだ午前中だというのに燦々と陽が射していた。
屋敷の中は何処も空調が効いているお陰で季節関係なく快適に過ごせるが、一歩扉を出てしまえば流石にそうもいかない。
早く干し終わって冷たい飲み物で休憩しよう!
…と心に決めて籠の中のシャツを取り上げた。
『ゔー…暑いー暑いー』
さっさと終わらせて灼熱地獄(ちょっと大げさ)から逃れたいのに、干しても干してもまだ籠の中には洗濯物が山盛りになっていて私をこの場に縛り付ける。
そうなると言ってどうなる訳でもないとわかっていても『暑い』と口をついて出てしまう訳で。
もういっそメイド服を脱いでしまおうかと頭を過ぎった時だった…
「おやなまえ、朝からご苦労様です」
通り掛かったのは骸さん。
午後からの仕事らしい彼の朝は遅く、今起きてきたばかりのようだった。
『おはようございます、骸さん』
「おはようございます」
挨拶をして洗濯物を干すのに戻るが、すぐ立ち去ると思われた彼はその場を動く気配はなかった。
『?…どうかしました?』
不思議に思って声を掛ければ、クフフ…と笑う。
「今日は暑そうですね」
『えぇ、まぁ…暑いです。骸さんはいつも涼しそうですね』
時に暑苦しいテンションの骸さんだが、その表情はいつも涼やかだ。
暑さにうんざりした顔をしているだろう私とは大違い。
『あ、そうか南国果実だから暑さには強「誰か南国果実ですって?」……いえ』
一瞬笑顔が怖かった…;;
「暑いのなら僕が涼しくしてあげましょうか?」
『え?』
骸さんの言葉に首を傾げた時だった。
ふと冷たい空気が通り過ぎたかと思ったら、目の前をヒラヒラと何かが落ちていく。
それは次から次から降ってきて…
『えっうそ…これ雪!?』
「クフフ…どうです?少しは涼しくなりましたか?」
『ええっ!?骸さんが降らせてるんですか?』
さっきまでの暑さが嘘のように、今肌に感じる風は冷たい。
舞い降る雪が日差しを受けてキラキラする様は、夢を見ているかのように綺麗だった。
『綺麗…どういう仕組みかは分かりませんけど、まるで魔法みたいですね』
「魔法、ですか。それならさしずめ僕は魔法使いというところですかね」
(実際はそんな夢のあるものではありませんが)
彼の言葉に魔法使い姿の骸さんを想像して、その似合い具合に思わず笑ってしまった。
『ありがとうございました、骸さん。お陰で涼しくなりました』
「なまえが喜んでくれたなら良かったですよ」
そう言った魔法使いは、クフフ…といつものように笑った。
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