特に親しいわけではなかったと思う。同じクラスにいる目立ちすぎず地味すぎない女子。ただ、ああ彼女は上手い位置にいるなと、それは前から思っていた。地味すぎては軽蔑の対象に入るし、目立ちすぎては一部から恨まれる。丁度その中間にいるような女子で、それが意識しているのか無意識なのかまでは判断しようとしなかった。そこまでの興味は沸かなかったし、それだけ彼女が自分を埋没させていたのだろう。余計な興味を持たれないように、誰にもそれを悟らせずに。そういう意味では最初は自分も彼女の思惑にうまく乗せられていたのだ。あのときのことさえなければ、彼女はずっと1人で誰にも一定以上の感情を見せることなく、人生を終えていたのじゃないかなどとこれは少々自意識過剰な推測かもしれないが。
とにかく、あのときのことがあってから俺と彼女の人生が少なからず変わったのは確かなことだろう。
遡るのは何年も前、高校2年の夏のことである。



激戦だったIHも終え、少し練習も緩やかになっていた、部活終わりのことだった。夏ももうすぐ終わりとは言え、まだ中々に日は長く、部活終わりであっても薄暗いほどの時間帯。実渕や葉山、根部谷と賑やかな帰り道でのこと。校門を出る直前にふと何気なく校舎を見やれば、屋上に誰か人が立っている。警備員の服装ではない。教員でもなく、女子生徒の制服姿。こんな時間まで残って、1人で屋上に__まさか、
自殺?
飛躍した考えではなかったように思う。色んなニュースでも学生の自殺が取りざたされるこのご時世だ。自分の学校ではありえないなどというのがむしろ飛躍された考えというものだろう。

「征ちゃん?」

実渕に声をかけられて、咄嗟に「すまない、」と言葉が滑り出た。

「先に帰っていてくれ。少し教室に忘れ物をしたようだから」
「赤司が忘れもん? めっずらしいなー」

普段の印象からだろう、本当に不思議そうにそう言う葉山に俺は苦笑を洩らして「たまにはね」と答える。それじゃあ、と不自然でないほどの急ぎ足で校舎の玄関まで戻り、そこからは走った。少しの間といえど上履きの踵を踏んだのは後にも先にもこの時だけだったと記憶している。



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