綺麗な空の朝でした

歌仙と並んで朝食の支度をしていると台所の入り口から「ねえ、」と聞き慣れた声がかかった。この声がそう呼びかける時は大抵私に呼びかけている時。
振り向くと案の定大和守が起きて入り口から顔を覗かせている。

「おはよう、大和守。どうしたの? 加州は?」
「おはよう。それがあいつ起こしたんだけど起きなくてさ、起こしてきてよ」
「私が?」

そう首を傾げると大和守は「うん」と頷く。「多分それだったらすぐ起きると思うから」と。
起こしに行くこと自体は至って構わないが、あと少しとはいえまだ朝食の支度も残っている。ふと歌仙を見上げると歌仙は小さく笑みを浮かべて言った。

「後は僕がやるから起こしてきてあげるといいよ」
「そう? じゃあ、ごめんなさい、後はよろしくね」
「ああ」

***

襖の前から「加州? 起きてる?」そう呼びかけるも返事がない。多分まだ眠っているのだろう。私は苦笑をもらしてから「入るよ」と声をかけて襖を引いた。部屋には畳まれた一式の布団と布団にくるまる影がひとつ。
私はすやすやと気持ち良さそうに眠っている加州の枕元に膝を突いてそっと布団の上から体を揺らす。

「加州? もう起きないと。朝食出来ちゃうよ」
「んん……あと、半刻……」
「朝ごはん冷めちゃうでしょ。加州、起きなさい」
「んー……、……あ、るじ……?」

やっと薄く目を開けた加州に笑って「そうよ、起きた?」と問いかければ、加州は暫くぼうっと私の顔を眺めていたかと思うと唐突に勢い付いて起き上がり私から距離を取るように布団の隅へ体を引いた。……何だか寝起きで服もはだけているせいか襲いでもしたような気分になるからそれはちょっとやめてほしい。

「あ、主!?」
「そう、主よ。おはよう」
「お、おはよ……っじゃなくて! 何で!? 安定は!?」
「もう起きて身支度も終えてるよ。……とりあえず着物の乱れ直そうか」

若干目のやり場に困るから。加州ははっと気付いたように布団を胸元まで引き上げて「ご、ごめん」と俯いた。唸りながら呟かれたのは大和守への恨み言だった。

「あいつ……起こしてくれても良かったじゃん……」
「起こしたけど起きなかったって言ってたよ」
「うー、でもー……」

髪も梳かしてないし、顔も洗ってないし、可愛くない……。
再び布団にくるまって顔を隠しながらそんなことを言う加州につい笑ってしまう。そんなことを言うところが最高に可愛いんだと分かってないんだろうか。

「寝顔も可愛かったから大丈夫よ」
「えー……」
「ほら、身支度整えるくらいの時間はあるから顔洗って着替えておいで。髪は梳かしてあげるから」
「うう……はあい……」

渋々とでも言いたそうに部屋の外に出た加州と偶然鉢合わせたのだろう陸奥守との「何じゃおんし、朝寝坊か!」「うっさいなー!」のやり取りが妙におかしくて思わず小さく吹き出してしまった。



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