01

『お願いっ!』

今年から晴れて誠凛高校1年生となった柊千秋は、電話口でそう頼み込まれて眉を下げた。通話相手は千秋のはとこである相田リコ。“お願い”の内容は、バスケ部に入部しないかというものである。千秋は苦々しい顔で本日何度目かの断りの文句を口上に乗せる。

「だからね、リコちゃん、俺は試合出れないの。分かってる?」
『それくらいは知ってるわ』
「試合出れない男子が入部したって部員さんたちが戸惑うだけだろ?」
『そんなことないわよ。ちゃんと説明するし』
「リコちゃん…」
『ね、お願い。新入部員は入ってきた割に相変わらずマネージャーは居ないのよ。やっぱり私1人じゃそろそろ大変だし、千秋君は要領も良いし、マネージャーだって出来ると思うわ』

ね? と珍しくぶった声音でお願いされて、千秋はため息を吐いた。折れる時の前振りである。それが分かっているのか、リコはだめ? と再度訊ねた。

「分かった。じゃあマネージャーの仕事はやる。でも入部はしない」
『えぇっ』
「これで妥協して。分かってくれるでしょ?」
『えー、でも……』
「だったら手伝いもしない」
『……分かったわ…。仕方ないわね』
「あと、交換条件」
『なに?』
「練習メニュー、作ってくれる?」

千秋は通話を終えると、疲れたようにためを吐いた。1つ上のはとこはよく気にかけてくれていると思う。そうでなければわざわざ自分を誘わないだろうし、仕事が多いというのも(まあ多少はあるのだろうが)多分口実だ。彼女は仕事が早いし新入部員もそこまで劇的に増えたとも聞いていないので、恐らく頑張ればリコ1人でも充分だろう。それでも尚、千秋を誘ったということは単に千秋を心配しているからであって、その心配を無下に蹴るわけにもいかない。

「交換条件もねじ込めたし、上出来、かな?」

自分にしては100点満点である。元よりすげなく断ることなど出来なかったのだから。じゃあ明日の放課後ね、と元気に言ったリコの声を思い出して苦笑する。全く自分はとことん女の子というものに弱いらしい。

「恨むよ母さん」

『女の子には優しくしなさい』刷り込みのようにそう言われて育てられたものだから、そりゃあ女の子の押しに弱くもなる筈である。ほぼ1年間の全てで家に居ない両親に恨み言を呟く。
ふわ、と欠伸を洩らす。そういえば、と今日のことに思いを巡らした。中学の時の級友が何かを聞きたそうにうずうずしているのが印象に残っている。というか自分も驚いた。誠凛に進んだと風の噂で聞いてはいたが、同じクラスで、しかも隣の席になるとは予想外だった。ちらちらとこちらを伺いながら、結局何も聞いてくることはなかったが。

「……寝よ」



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