始まらなかった恋の話

※一種のifモノ






同年代にしては小柄な体格で一見しただけでは小動物のよう。けれどその性格は小動物とはむしろ縁遠い勝ち気で男勝りな少女、香坂夏目の流暢な説明を聞きながら、意外だよなぁ、と夏目を見つめる。
我が秀徳高校は実力テストの結果上位50名を掲示板に張り出す習わしがあるのだが、上から8番目にその名前を見つけた時は思わず二度見してしまったくらいだ。ちなみに女子の中では堂々の3位である。すごいを通り越してもう化け物じゃないかとすら思えてくる。
そんな視線に気づいたのか、ただ単に相槌が少なくなったのを怪訝に思ったのか、夏目は顔を上げて呆れたように「聞いてる?」と尋ねた。

「あ、……わり、」
「なんか悩み事とか?」
「は? え、何で」
「アンタが人の話聞いてないなんて珍しいから」

できる範囲なら相談に乗るけど。そう言って高尾を見る夏目に苦笑いをもらして「オベンキョーが退屈だっただけ」と答えれば、夏目は今度こそ呆れかえったのか心配して損した、という雰囲気を隠さずにため息を吐く。

「教えてって言ったのアンタでしょうに……」
「悪ぃって。でも意外でさぁ」
「何が」
「夏目が勉強できるのとか」

夏目はまぁね、と言うとシャーペンを置いて体を伸ばす。

「ほんとはそこまで得意な方でもないんだけど。うち親厳しいから」
「ふーん。……でも夏目の説明分かりやすい」
「退屈だったのに?」

悪戯な目で見上げられて苦笑する。これは完全にお遊びモードである。悪いって、と返せば小さく笑い声をもらした。

「ま、中学の時にもっと馬鹿な奴に教えてたからかな」

昔を懐かしむように、大事な思い出にそっと触れるように言われたその言葉に、あぁいつもの奴か、と胸の奥に何かが刺さる。中学時代のことを話す時の夏目は時折恐らく無意識にそんな風に言葉を紡ぐ。そんな風な時に言われる人物はきっと同一人物だ。馬鹿でバスケが好きで背が高くてデリカシーのない奴。まるで悪口しか言っていないように聞こえるが、そいつのことを話す夏目の目は__、

「高尾?」
「……あ、」
「ちょっと、ほんとに大丈夫?」

明らかな心配の目で見られるがこの考え事を夏目に話すことなどできるはずがない。何でもない、と笑えば夏目は疑わしそうに眉を顰めて高尾を数秒見つめ、「大丈夫ならいいけど」とため息を吐いた。多分納得したわけではないが、聞き出すのは諦めたのだろう。また聞かれても困るのでそれ以上考えるのはやめにして、夏目の解説に集中することにした。



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